甲斐のFA宣言から、巨人入団が決まるまでの約1か月。その間、明らかな変化があった。それは同じ捕手同士でもひしひしと感じる部分でもあった。「谷川原さんと海野さんはけっこうギラついているかもしれないです」。こう語ったのが、今季高卒1年目のシーズンを終えた藤田だ。来季、正捕手を本気で狙いに行く先輩捕手の姿からは、その覚悟を感じていた。
当然、来季2年目を迎える藤田にとっても、このチャンスを逃すわけにはいかない。激化するであろうポジション争いに対し、負けずに立ち向かうため、どのような思いで日々を過ごしているのか――。「泣きまくった」という1年目のシーズンと成長。そして高校時代からの憧れでもあった甲斐への思いを明かした。
「自分からすれば甲斐さんは“師”です。なので複雑な思いがあります。でもチャンスでもあるし、そこは年齢とかは関係ないので狙いに行かないといけないというか、狙わないともったいないです。でももっと甲斐さんから学びたかった気持ちもありますね」
地元・福岡県出身の藤田は福大大濠高時代に捕手を始めることになった。「僕は身長もそんなにないし、そこを狙わんといけんなって思っていました。プロに行くなら甲斐さんのようにならないとって思っていました」。同じ170センチの身長。球界を代表する捕手へと上り詰めた甲斐の存在は、憧れでもあり目標にもなった。念願が叶って同じユニホームに袖を通したものの、一緒に過ごす時間は少なかった。
将来を見据えて、今季は主に4軍で汗を流し続けてきた。「何回泣かされたやろっていうぐらい泣かされました。悔しくて試合中もベンチで泣いたこともありました。みんな応援しているのに僕1人で。『泣くな!』って言われていました」。何度も悔し涙を流しながら先輩の影を追い続けた。
捕手としての経験がまだ浅いため、試合中にミスすることも少なくはなかったという。「結構怒られました。でも強くなったかもしれないです。練習はたくさんしてきましたよ」。失敗をする度に的山哲也4軍バッテリーコーチからの指導を受けては、歯を食いしばりながら練習に励んだ。その積み重ねが自信へとつながっていることを実感する。
そんな1年目の終わりに憧れの先輩が移籍することになった。甲斐がFAを宣言して以降、感じていたものがある。「自分のことは眼中にないみたいな感じです。そんな雰囲気です。海野さんと、谷川原さん、(渡邉)陸さんもそんな感じがします。優しいですけど、やっぱり自分のことだけを考えているんだなと感じます」。プロ野球選手は、全員が個人事業主。先輩たちもレギュラーを掴むために必死だ。その争いの中に自分は入っていないことを肌で感じた。
そんな先輩の意気込みも、今の藤田にとってはプラス材料に変えていける。「だから自分も秋季キャンプはずっと個別でやっていました。一緒にやることはなかったので、逆に良かったのかなと思います」。同じポジションである以上、狙うイスはひとつだけ。そこに先輩も後輩も関係ないことを再確認することができた。
「甲斐さんは自分の目標なので。それをまず超えないといけないんで。的山コーチにも聞きながら、怒られながら頑張ります。しかも僕も支配下だし。そこは大いに狙わないといけないです」。先輩たちのギラギラにも負けないくらい、真っすぐな目で語った藤田。2年目も悔しい思いや、涙を流すこともあるだろう。巨人に移籍することになった大先輩に、成長した姿を見せるためにも、毎日を全力で過ごしていく。