巨人が獲得を正式に発表…決定までのチーム内の声はさまざま「絶対に移籍する」
巨人は17日、ソフトバンクから国内フリーエージェント権の行使を宣言していた甲斐拓也捕手の獲得を発表した。ホークス一筋14年、通算1023試合に出場してきた正捕手の流出が正式に決まった。「拓也のおかげ」――。感謝を口にしていたのは、中村晃外野手だ。
2010年育成ドラフト6位で大分・楊志館高から入団した。2013年11月に支配下登録をされると、徹底的な準備と努力で正捕手の座を射止めていった。6年連続を含み、ゴールデン・グラブ賞は実に7度の受賞。2021年の東京五輪、2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では日本代表の一員として世界一に貢献した。今季は打撃面の数字も大きく改善され、打率.256、5本塁打、43打点を記録していた。
リーグ優勝に輝いた2024年。2位に13.5ゲーム差をつけて頂点を掴んだ。甲斐は119試合に出場。ホークスのチーム防御率2.53はリーグトップ。被安打(980)、三振数(1104)、暴投(18)などもトップで、海野隆司捕手らも含めたキャッチャー陣の奮闘は、今年を振り返るに欠かせないだろう。中村はこんなことを漏らしていた。
「このシリーズは間違いなく拓也のおかげでしたね」
10月16日からクライマックス・シリーズのファイナルステージが、みずほPayPayドームで行われた。相手はレギュラーシーズンで12勝12敗1分けと互角の戦いを演じた日本ハム。結果的にホークスが3連勝で日本シリーズ進出を決めた。甲斐は全3試合でフル出場。中村が「拓也のおかげ」と話したのは、CS突破が決まった直後だった。
甲斐本人も「準備はめちゃくちゃ時間を使います。必要なことですし、何もなくてそれ(主導権を握ること)は難しいと思うので」と話していたが、見事に結果で応えてみせた。プロ16年目、中村晃もキャリアの中でたくさんのキャッチャーを見てきた。CS、レギュラーシーズンの内容も踏まえ、甲斐ほど徹底的な選手は「見たことがない」という。そして「もっと評価されてもいいと思う」と続けた。
背番号7にとっても今季は出場数が限られ、101試合に出場して打率.221、0本塁打、16打点という成績だった。愛妻に現役を「辞めようと思っている」と漏らすほど、自分の結果はもちろん、ファンからの心ない声に苦しんだシーズンだった。
リーグ優勝から遠ざかった3年間の中で、甲斐も「叩かれることが多かった」と語り、本拠地に届くファンレターで配球について酷評されたこともあった。「ちょっと前は、拓也がそんな感じでしたよね……」。3歳年上の中村晃の方からも、甲斐の気持ちと苦しさを思い知った1年だった。本人たちは厳しい声に思い悩んでいるが、それほどまでに欠かせない存在になった最大の証でもあった。
11月13日に、国内FA権の行使を宣言した。「FAを取ってからが一流だと思っていた。野球選手として(他球団の)評価を聞いてみたい」と、決意した表情で語った。その後、ホークス内の声はさまざま。ある主力選手が「絶対に出ていくと思います」と言えば、牧原大成内野手は「拓也の道ですし、どこに行っても関係は変わらないです」と背中を押した。別の選手も「自分が聞いているのは(残留と移籍で)半々だと……」など、多くの証言が集まった。
三笠杉彦GMは正捕手の流出に「残念です。ダメージはありますし、ないと言えばウソになります」と言及。この日、甲斐の代理人である酒井辰馬弁護士とやり取りを交わし、移籍を報告された。甲斐の今季の推定年俸は2億1000万円。Bランクと見られ、人的補償が発生する可能性がある。捕手を補充する考えも含めて「今日、決まって発表されたことなので。考えていきたいですし、今のところは特に方針はありません。プロテクトリスト次第だと思います」と話すにとどめた。
甲斐は球団を通じて「ホークスで出会えた全ての皆さんのことを思い浮かべると、離れてしまうことは本当につらいのですが、セリーグで新たな挑戦を始めたいと思います」とコメントした。絶対的な正捕手はもういない。2025年、リーグ連覇&日本一はきっと、簡単な道のりではない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)