牧原大は「ここまでやったことがすごいんじゃないですか。僕らは育成から入ってきている。FAなんて取れると思っていなかったので。それだけですね」と語る。甲斐本人もFAを「一流」の証だと表現していた。残留か、移籍か――。盟友が思い悩む姿を見守っていた中で、背番号8は本音を明かしていた。
「なんと言われてもいいですけど、拓也は、チームとしては残ってほしいです。でも、僕の個人的な思いとしては、自分の好きなようにやってもらいたいです。どこに行っても(関係は)変わらないと思います」
FAとは、選手が勝ち取ったものだ。自分の力で得た権利なのだから、「好きなようにやってもらいたい」というのが心からの本音だった。飛行機の移動中でも相手チームの映像を見て研究し、徹底的に準備をする姿を何度も見てきた。だから「僕はそう思います」と、FAにおける決断は甲斐の思いが尊重されるべきだと強調した。努力の一部を、牧原大が代弁する。リスペクトの言葉が溢れた。
「相手チームの勉強をすること、若い子たちに比べたら長いことやっているぶん、一番やっているのかなと思いますし。結果だけじゃなくて、そういったところも僕らは見ているので。拓也はすごいなと思います。だから打たれても何も言えないですよね。何かを言う人はいますけど、そこまでは知らないですしね」
甲斐がFA宣言をしたのが11月13日。球団行事でも顔を合わせながら、揺れる胸中は横目で見ていた。「それは悩むんじゃないですか? ずっとホークスの正捕手としてやってきた」と、気持ちは当然理解できる。その上で「チームとしては痛いですし、同じ育成の出身としてはずっとやりたい気持ちはありますけど、拓也の道なので。どこに行っても拓也との関係は変わらないです」と、背中を押す意思を繰り返した。
牧原大も、今年の4月に国内FA権を取得した。昨オフに球団とは3年契約を結んだ。自分自身の胸中について「意識なんてしないですよ。気づいたら取れていたって感じです。FAのことを考えられる余裕があるチームではないので」と語る。誰よりも早くグラウンドに姿を見せて、油断のない準備を繰り返してきた。毎日を必死に過ごす中で、FAという権利を手に入れることができた。新たに結んだ契約について、悩みは「全然なかったです」と明かした。
「僕はシンプルに、30歳を超えて、また一から新しいチームが『どうかな』っていうのがありました。そこだけです。金額というよりは環境じゃないですかね。僕は福岡(出身)なので。どこかに(移籍して)行って、最初から家やら何やらを探すというのは……。家族もいますからね。そこを考えると、僕はそうやって決めました」
決断に至るプロセスは、本当に人それぞれ。千賀はメジャーリーグ挑戦、甲斐は巨人移籍……。FAという視点から見ても、生涯ホークスを胸に決めている牧原大にとって、2人の存在は「特別です」と頷いた。「拓也は、12球団でトップのキャッチャーです。本人が、誰かに(努力を)言うわけでもない。見ている人は見ているんだと思います」と言い切る。「普段言わないですよ。聞かれたから言っているだけです」。移籍したことで関係が終わるわけではないと知っているから、今伝えたい思いは、感謝とリスペクトだけだった。