「俺DeNAか…」飛び交う名前と電話 “ガセ”情報に翻弄、板東湧梧の現役ドラフト

ソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】
ソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】

NPBのホームページにアクセス集中…発表までの時間に多くの憶測が飛び交った

 移籍が決まったのは13人。それぞれの人生が交差する中で、誤った情報に惑わされた選手がいた。「DeNA移籍」。結果的に憶測だったが、驚きを隠せなかったのが板東湧梧投手だ。

「第3回現役ドラフト」が9日に行われ、吉田賢吾捕手が日本ハムに移籍することが決まった。この日まではホークスの一員だったが、いきなり日本ハムのユニホームを着ることになり「急だったので、気持ちの整理はあまりついていないですけど。今思うのはプラスにとらえるしかないということ」と、胸中を絞り出した。2年目の今オフ、福岡・筑後市内の「若鷹寮」を退寮。新居を構えて「まだ20日も経っていない」と、家ごと新天地に移ることになった。指名された選手にとっては、ドタバタの1日だった。

 午後1時から開始された現役ドラフト。ホークスから「吉田放出」と「上茶谷大河投手の獲得」についてリリースが配信されたのは、午後6時8分だった。夕方になると、選手の移籍結果が発表される日本野球機構(NPB)の公式ホームページがアクセス集中のため、ネットワーク障害に陥った。ファンの関心度も年々と高まっている中で、多くの憶測や“デマ”も飛び交っていた。その1つが、板東の「DeNA」移籍だ。本人はどんな胸中だったのか。

「ビックリしました。連絡も結構来ましたし『俺DeNAか、マジか』って思っていましたね」と第一声。9日は、千葉・鎌ケ谷市内で行われていた「12球団対抗ゴルフ」に参加しており、現役ドラフトの結果を見守っていた。実際に移籍することになったオリックスの山足達也内野手や、日本ハムの田中瑛斗投手らも参加しており「『電話が来た』って連絡が来ている人も周りにいたので」と、慌ただしい様子は横目で見守っていた。

「電話でその場を外していく選手もいたので……。バタバタしているなって思いましたし、自分もスマホを見たらスカウトの人から電話があって、それは全然違う件だったんですけど。ソワソワしました」

 結果が発表される直前、バスの中にいた。「DeNA移籍」を見て一番に連絡をくれたのが、第1回の現役ドラフトで阪神が新天地となった大竹耕太郎投手だった。「マジで?」と、その情報を信じ込んでいたという。板東は、球団からの電話がかかってきていない旨を伝えると「『じゃあ違うわ』って言ってくれましたし、彼は連絡が来たのは正午くらいだったそうなんです。僕は連絡がないから、多分(指名は)ないだろうとは思っていました」と落ち着かない胸中だった。

 今オフにホークスを戦力外となり、DeNAに移籍が決まった笠谷俊介投手からは電話がかかってきた。バスの中にいるから出られない。すぐに返事をすると「『一緒ですかね?』って。あいつは期待していました」と、左腕は再びチームメートになることを喜んでいた。「周りに他球団の人もいて、『DeNAか……』って思いましたけど。『冷静に考えたらこれガセじゃね?』となっていきましたし、そうあってくれと思っていました」。不安と焦燥は、少しずつ消えていった。

 板東自身、今季は1軍登板なしに終わり10月には「(戦力外通告は)他人事じゃない」と危機感を口にしていた。「現役ドラフトも覚悟していたというか、そもそも僕は獲られないと思うんですけど、出される可能性はあると思っていました」と、頭の片隅にはよぎっていた。結果的に“デマ”だったものの、「いざ行くかってなった時に、腹は括れていなかったので、とにかくビックリしました」と、移籍するかもしれないということだけは身を持って体験した。

 実際に移籍する吉田は「ゴルフ仲間です。賢吾が行くとは思わなかったですけどね」。別れを惜しんだが、それもプロ野球界であることはわかっている。「ガセとは言いつつも、名前が出ているのでソワソワしましたね。ホッとしたのは発表を知ってからでした」。現代においてどんな情報を信じるべきか、選手にとっても試されたような瞬間となった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)