「勇は芯がない」 今宮健太がライバルに手を差し伸べた理由…重ねた“自身の若き日の姿”

ソフトバンク・野村勇(左)と今宮健太【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・野村勇(左)と今宮健太【写真:荒川祐史】

今宮の自主トレに野村が“弟子入り”「もちろん競争です」

 定位置を争うライバルであっても、苦しんでいる姿を他人事とは思えなかった。今宮健太内野手が明かしたのは、年明けの自主トレに野村勇内野手が参加することだった。いわば“敵に塩を送る”形ともいえるが、そこにはチームリーダーらしい思いがあった。

 NTT西日本から2021年ドラフト4位で入団した野村は、1年目から97試合に出場して打率.239、10本塁打、25打点、10盗塁をマーク。パンチ力にスピードを兼ね備えた即戦力野手として期待に応える活躍ぶりだった。だが、2年目の昨季は50試合の出場で打率.160、3本塁打と成績が下降。今季も38試合に出場して打率.116、本塁打0と“負の流れ”を変えることができなかった。

 今宮は打撃に苦しむ後輩について「勇は芯がないので」ときっぱり言い切った。言葉だけを見れば冷たく切り捨てたようにも感じられるが、真意は別にあった。「正直、僕もそうだったんです」——。野村の苦悩は、自身も通ってきた道だった。だからこそ、手を差し伸べたくなった。

「僕も勇と同じで体も小さかったですし、常に『右に打て、右に打て』と言われてきたので。右方向に打てと言われても、どうすればいいのって思いましたし、若い時は無理やり右に打とうともしていたので。自分が持っているものの中で、どう打とうかっていうのをいろいろと考えられるようになったのは本当に3、4年前。本当に遅かったんですけどね」

 今宮の身長は172センチで、野村は174センチ。プロの世界ではかなり小柄だ。ともにパンチ力のあるタイプではあるが、チームバッティングを求められるケースも多い。シーズン中から感じていた後輩の苦悩は痛いほどわかった。

「右打ちの技術そのもので言えば、僕は今でも得意な方ではないです。やっぱり大事なのはメンタル。勇はコロコロと形が変わっちゃうので。『俺はこれをやり続けるんだ』っていうものが1つあれば、もしかしたら変わっていくきっかけになるかもしれない。僕も若い時は本当にコロコロと変わっていたので。打てなくなったらこうしよう、みたいな感じでずっとやってきて、打撃の成績は出なかった。勇の気持ちはすごく理解できるんですけど、芯ができた時にどうなるのかという楽しみはある選手ですよね」

 今宮が強調するのは野村が秘める“無限の可能性”だ。「ポテンシャルだけで言えば肩も強いし足もある。パンチ力なんかチームの中でも上位に入っていけるものがあるので。そういった潜在能力を感じているのは僕だけじゃなくて、みんなもそうなので。彼が自信を持ってやっていけるように。その手伝いができればいいなと思います」。走攻守でハイレベルな選手になれる逸材が、苦しんだまま埋もれていくのはもったいない——。その思いが行動に現れた。

 ここ数年は「自分のことだけを考えたい」と口にすることが増えた。小久保裕紀監督も来季のレギュラーに“当確”を与えたのは近藤健介外野手、山川穂高内野手、柳田悠岐外野手の3人だけで、今季ベストナインを受賞した今宮でさえ、来季は再びレギュラー争いが待っている。

「自分のことをやるっていうのは前提です。僕から直接、色々と教えようとは正直思っていないですし。ただ、あいつから聞かれることがあれば教えたいなと思ってるだけで。基本的にはそういうスタイルでやれればいいかなと」。絶好の機会を生かすかどうかは本人次第だ。

「もちろん競争ではありますけど、チームとしてもやっぱり“そういったところ”もすごく大事になってくるのかなっていうのは思います」。野村の成長は、ホークスの将来につながる——。今宮がチームリーダーとして周囲から厚い信頼を集める証だ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)