枠をあけるのは“礼儀”…ルーキーイヤーで掴んだ確かな自信
喜びも苦しみも味わったルーキーイヤーだった。「個人的にはいい1年だったかなって思いますけどね」。社会人野球「ロキテクノ富山」から昨年のドラフト5位で入団した澤柳亮太郎投手が1年目を振り返った。
今季は新人ながら11試合に登板して2勝1敗、防御率3.38の成績を残した。一方で、9月4日には「右肘関節内側側副靭帯再建術(通称トミー・ジョン手術)および右肘頭骨接合術」を受け、復帰までの期間はおよそ1年から1年半の見込みとなった。球団は10月上旬に来季の支配下選手契約を結ばない旨を通達した。
「戦力外」の3文字に、周囲からは多くの連絡が寄せられた。ほとんどが澤柳の状態を気にかけ、心配する声だったが、一部には別の反応もあったという。全てのことがプロ野球選手として初めての経験だった1年。右腕が感じた思いとは——。
「なんかいろいろと言ってくる人とかはいるんですよ。どうしても“戦力外通告”って(報道に)出るので。やっぱり面白がって連絡してきたりとか……」
“面白がって”連絡してくるとはどういうことなのか。「やっぱ妬みの職業だと思うので」。澤柳は、こう続けた。「どうしてもいろんな種類の人がいるので。妬んでくる人とか。そういう人が面白がって『大丈夫か?』みたいな。『これ、心配してないな』って感じの連絡もいっぱい来たりして」。ほんの一握りの人しか叶えることができない“夢の世界”の扉を開いた右腕。抱いた感情は、プロ野球選手としての“宿命”なのかもしれない。
「本当に心配してくれている人とそうじゃない人、文章でなんかわかるじゃないですか。そんなに仲良くなかったのに、急に連絡をしてたりとか。『まあ大丈夫だよ』みたいに返していますけど。それはもう全然。逆に注目してもらえているからいいかなって」。澤柳は“そういう世界”だということを理解した上で、むしろ清々しい表情で語った。
来季以降に向けても、右腕はいたって前向きだった。「今年はいい1年だったかなって思います。もちろん怪我をしてしまったので、そういう意味ではダメかもしれないですけど。2勝もできて、いいところでも投げられましたし。まだ松本(裕樹)さんや藤井(皓哉)さんが残っているバリバリの中継ぎ陣で、新人では唯一投げられていたので。実力は示せたシーズンだったのかなと思います」。
中継ぎで2勝を挙げられたのも、「いい場面で投げていないと、2勝ってできないと思うので。そういうシチュエーションで投げられた証なのかな」と胸を張る。球団からも「怪我をしてしまったけど、投げられれば1軍で通用するということは分かった」としっかり評価された。
現在は前を向いてリハビリに取り組んでいるが、怪我をした直後は何もできずもどかしい時間もあった。「ホークスが優勝争いをしている中で、(1軍に)残っていたら『ここで投げられたのかな』とか思うこともあってキツかったんですけど。そこは頑張って。『落ち込んでいてもしゃあないな』と思ったので。それだったら他の選手を応援した方がいいかなと」。気持ちを切り替えて、チームの快進撃を見守った。
1年目オフでの「戦力外通告」にも右腕は動じなかった。「枠空けの問題で、絶対にそうなるとは思っていたので。全然なんとも思わないっていうか。そこは『分かりました』って感じで。球団からは『枠を空けてもらえたら嬉しい』『もう1度、身体を作り直す期間ができたから、さらにレベルアップしてくれ』みたいな感じで言われました」と、やり取りを明かした。
ルール上は球団からの“要望”を拒むこともできた。それでも戦力外通告を受けた直後の取材では「自分の中で、はほぼほぼホークスでやっていきたい気持ちはあるので」と答えた。そこには澤柳なりの“ポリシー”があった。
「自分としても来年は働けないので、枠を空けるのは普通に“礼儀”かなと思いますし、ホークスにはずっと強いチームでいてほしいので。1枠を空けて、それで補強とかがうまくいくんだったら。そして、自分が復帰した時に実力さえ示せれば、また戻れると思うので。そこは冷静でした」
強く、そして優しい心を持った男だ。気の遠くなるようなリハビリ生活は続くが、澤柳なら心身ともにさらに逞しくなって帰ってくるはずだ。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)