「1軍で投げることはない」 板東湧梧が“覚悟”を決めた日…首脳陣が信じた「強さ」

ソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】
ソフトバンク・板東湧梧【写真:竹村岳】

10月以降は試合で登板せず…首脳陣とのやり取り「リーグ戦が終わった後に」

 自分自身のためだけに、選択した。シーズン終盤に宣告されたのは「1軍で投げることはもうない」。10月2日、肌寒くなってきた筑後での出来事だった。

 ソフトバンクの板東湧梧投手は今季、ルーキーイヤーだった2019年以来となる1軍登板なしに終わった。ウエスタン・リーグでは14試合に登板して3勝2敗、防御率3.88という成績に終わった。「悔しい1年でした」。自分自身の課題と向き合い続けたシーズン。チームは日本シリーズ進出を決め、日本一に向けて歩んでいく中で、貢献できずにいた。そんな右腕について、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)が現状を明かした。

 10月下旬となった今も「みやざきフェニックス・リーグ」で登板はせずに、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で今も調整を続けている。最後の実戦登板は、9月25日のウエスタン・リーグ阪神戦(鳴尾浜)だった。なぜ板東は今、黙々と自分だけの練習に取り組んでいるのか。

「リーグ戦が終わった後に相談させてもらいました。来シーズンが僕にあるのかわからないんですけど、そのためにも、1回ゲームから離れさせてください、と。(伝えたのは)星野さん(順次コーディネーター)ですね。で、その後に倉野さんとも話をして、『わかった』『その方がいい』と。『今シーズン、お前が1軍で投げることはもうない』と言われたので、一旦ゲームから離れさせてくださいと(伝えました)」

 すでにウエスタン・リーグの全日程が終了した10月2日、筑後を視察した倉野コーチと言葉を交わした。板東自身も、終盤戦の結果に対して「投げて、苦しくて、何も変わらなかった。自分でも、最後の方のゲームが本当に苦しくて、ここにいていいのか、これで投げていても進まないんじゃないか」と葛藤を抱いていた。試合から離れ、自分のためだけに調整がしたい。その旨を首脳陣に伝え、筑後での練習に集中することになった。

 倉野コーチも「あの時点での1軍は難しいと思った。1日でも早く来季に向かう方が板東のためになる」と理由を話す。ポストシーズンでの登板がないことも、早々に伝えた。板東にとっては辛いかもしれないが、2025年に向けて誰よりも早くスタートを切ったことを意味している。「目の前の試合に追われていて、思い切ったことができていなかった。1回リセットして、自分が納得できるパフォーマンスを取り戻せるようにした方がいいと思った」。首脳陣の目から見ても、時間を与えることが最善だと判断した。チームの日本一が選手に共通する最大の目標ではある中で、板東のためだけに選択をしたつもりだった。

「ネガティブな感情で話はしていないですし、来年絶対に巻き返すというか、そういう気持ちで2人で話してきました。ああ見えて、気持ちは強い。芯を持っている選手ですから、そういう強さがある。あとはどうやって打開していくかというところ。ちょっと自分の殻ができてしまって、閉じこもってしまったようなイメージでしたけど……。板東の強さがあれば、必ず(殻を)破ってきてくれると思います」

 投手陣を任されている倉野コーチ。板東の今季について「試行錯誤して終わったシーズンだったなと思います。理想の球じゃないということにフォーカスしすぎて、行ったり来たりしてしまった。打開させられなかったのは、こちらの責任です」と振り返る。シーズン中には、何度も言葉を交わしてきた。中継ぎ時代には、もっと球速が出ていた姿を知っている倉野コーチは「怪我もしていないですし、メカニクスに問題はあると思うんですけど……」と首を傾げる。星野順治コーディネーターやファームの投手コーチの力も借りながら、最後まで打開策を探していく。

 板東自身も、体に痛みはないという。ノースロー調整も視野に入れているそうで、「痛くはないので、逆に勇気がいるんです。やらない(投げない)選択をすると思うんですけど、やるしかないです。それも勇気、挑戦かと」と語った。これまでの取り組みも見つめ直しながら、1軍で結果を出すことに、もう1度全力で挑む。覚悟を問いかけると、力強い表情でキッパリと言った。

「気持ちは燃えています。人がどうとかよりも、自分に対してこのままで終われるかっていうのが一番強いです。折れそうになる時もありましたし、これからもあるかもしれないですけど、それを乗り越えて今は絶対にやってやるという気持ちでやっています」

 待ってくれている人がたくさんいる。熱い気持ちだけは見失っていない板東なら、まだまだいける。

(竹村岳 / Gaku Takemura)