杉山一樹が胸に刻む松本裕樹の言葉 「環境が変わっても…」初のCSも“不変の思考”

ソフトバンク・松本裕樹(左)と杉山一樹【写真:竹村岳】
ソフトバンク・松本裕樹(左)と杉山一樹【写真:竹村岳】

敗戦処理からセットアッパーに…飛躍の1年も「まだ戦いは終わっていない」

 初の舞台でも自らのスタイルを貫く。「初めてなのでまだ分からないですけど、特に意識せず一生懸命投げるだけかなと思います」。16日から始まる日本ハムとのクライマックス・シリーズ(CS)ファイナルステージ。杉山一樹投手は平常心を強調した。

 6年目の今季は50試合に登板して4勝0敗14ホールド1セーブ、防御率1.61を記録。各部門でキャリアハイをマークし、4年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。充実の1年にも、「まだ戦いは終わっていないので。CSを突破して、日本一になった時に初めてシーズンを振り返られるかな」とファイティングポーズは崩さない。

 プロ2年目の2020年には日本シリーズで1試合に登板した経験はあるが、これまでCSのマウンドに上がったことはない。「何かを変える必要はないと思います」。そう言い切れるのには理由がある。今季の飛躍を支えてくれた言葉――。声をかけてくれた先輩の名前、そして胸に刻んでいる一言を明かしてくれた。

「『環境が変わっても、やることは変わらない』。これは松本(裕樹)さんから教えてもらった言葉なんですけど。松本さんもシーズン途中にセットアッパーからストッパーに(役割が)変わって、その時に感じたことみたいで。僕もシーズンの最初は敗戦処理、そして中ロング、僅差、勝ち試合と投げる場所が移っていった時に、その言葉があったんで。自分も変わることなくずっといられたのかなと。だから今もあまり(CSのことを)意識はしていないです」

 守護神のロベルト・オスナ投手がコンディション不良で7月上旬に登録抹消されると、代わってクローザーに指名されたのが松本裕だった。配置転換の当初は救援に失敗するケースもあったが、徐々に新たな職場に慣れていった右腕は登板6試合連続セーブを記録するなど、高い順応性を示した。環境の変化にも貫き通した自らの信念。それが功を奏した結果だった。

ソフトバンク・杉山一樹【写真:栗木一考】
ソフトバンク・杉山一樹【写真:栗木一考】

 その松本裕が右肩の違和感で戦列を離脱するなど、中継ぎ陣に故障者が相次いだ9月上旬以降はセットアッパーを任された杉山にとっても、先輩の言葉は心に響いた。「どんな場面でも自分の力を出し切るだけ」。優勝争いの緊迫した場面でも、その姿勢は変わらなかった。その積み重ねが、キャリアハイの成績へとつながった。

 心構えは変わらずとも、大舞台への準備は怠らない。「シーズンの投球はしっかり振り返っています」。参考にしているのは自身の投球だけではないという。

「自分に似た持ち球や特徴を持っているピッチャーも見てますね。(ロッテの佐々木)朗希君もそうですし、(オリックスの山下)舜平大もそう。真っ直ぐで押して、フォークで空振りを取るピッチャーですね。(西武の)甲斐野さん、(オリックスの)マチャド、(西武の)アブレイユとか。僕は(真っ直ぐとフォークの)2球種でも抑えるにはどうしたらいいかって……」

 自身と同じスタイルの投手も加えれば、参考となるサンプルは何倍にもなる。「実際に対戦していなくても、対戦した感覚は得られますね」。1本の太い心が通ったメンタルに、入念な準備。初のCSに向けて、やれることはやってきた。

 日本シリーズ進出をかけた戦いの相手は日本ハムに決まった。「4番(を打てる)バッターがめっちゃ並んでいるんで」と警戒しつつ、「負けたらおしまいっていう戦いですけど、気持ちは変えずにやりたいと思います」と拳を握る。戦列を離れている先輩右腕の思いも胸に、無心で腕を振るつもりだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)