先輩たちがかけた言葉…前田悠伍は「賢くなる」 重要な今宮健太との“意思疎通”

ソフトバンク・今宮健太(左)と前田悠伍【写真:竹村岳】
ソフトバンク・今宮健太(左)と前田悠伍【写真:竹村岳】

今宮健太や牧原大成が…高卒ルーキーに寄り添った先輩たち「緊張した?」

 鷹フル単独で行った前田悠伍投手のインタビュー。2回目はプロ初登板となった10月1日のオリックス戦(みずほPayPayドーム)を振り返ります。多くの選手が声をかけてくれたというデビュー戦。先輩たちに比べれば、自分の思考は「素人……」。痛感したレベルの違いと、チームメートの優しさについて語ります。印象に残ったのは、又吉克樹投手の言葉でした。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 待望のプロ初登板、初回は3者凡退に抑えたが、2回に5安打を集められて4点を失った。そんな中でも谷川原健太捕手や栗原陵矢内野手ら、多くの選手が声をかけてくれた。結果的にチームは8-6で逆転勝利。「あれだけ点数を取られても取り返していただいた。すごく嬉しかったですし、頼りになるなというか。そういう方々ばかりなので。自分も最小失点で抑えていけたらなと思います」。3回で降板し、ベンチで戦況を見つめていた左腕に対し、真っ先に声をかけてくれたのが又吉だった。

「又吉さんは『単調になっていた』と言ってくれました。スライダーを引っ掛けていた時には、もしセカンドにランナーがいたら、逆回りの二塁牽制を入れたら多少は体の開きがおさまるとか。ショートから出る牽制のサインを見る、といったやり取りでも間(ま)は作れるし、牽制でも作れる。外野を見て、多少後ろに下がっているならフライ(アウトを狙って)も取れるし、周りを見ることでも間はできる。グラウンドを広く使った方がいい、とは言われました」

 失点が重なっていくことで、どんどん視野も狭くなってしまう。一定のリズムになっていたことを又吉に指摘された。1球1球、野手の位置やサインを確認することで意思疎通を図り、守っている9人で1つのアウトを奪いにいく。当然のように聞こえることでも、初登板を終えたばかりの前田悠にとっては新鮮だった。「他の人が投げている時でも、自分が投げていると思って見たら賢くなると言われました。それが一番印象には残っています」と、必死に耳を傾けた。

 前田悠自身にとっても、打者との間合いを制することは持ち味の1つだった。それでも、アプローチの違いは歴然だった。又吉の助言を踏まえた左腕は、「全然、プロの歴が違う。それは『考え方が違うな』っていうか、まだまだ僕は素人というか……。そういう感じにはなりました」と勉強させられた。

ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

 又吉の視点ではどうだったのだろうか。自身は5回1死から登板して、2つのアウトを奪った。ベンチに座ると、戦況を見つめている前田悠がいた。「(試合を見て)学ぶことがあるだろうから、と思いました」。隣に座って、声をかけた。

「勝っていても負けていても、差が開いた時は単調になるもの。例えば、途中から出てきた投手がショートからのサインを1つも見ないで初球を投げたとするでしょう。それで次、サインを確認しても、その時点で普通じゃないんです。最初から見ないといけない。僅差の時はみんな、絶対に確認するじゃないですか。僅差の時にできることを、大差の時にもやらないといけないですよね」

 プロとして当然とも言える確認作業の重要性を伝えた。外野が下がっているにも関わらず、打者を詰まらせにいってもポテンヒットになる可能性が高まってしまう。野手の状況をしっかりと把握しておけば「腹を括って、目的を持って投げられる。そういう意味で『グラウンドを広く使え』って言ったんだと思います」と解説した。通算503試合に登板した右腕の言葉には説得力があった。

 中日時代は先輩たちから言われる立場だった。「何のためにサインを出しているのか考えろ」。二遊間を守っていた荒木雅博さんや、堂上直倫さんに教えてもらった。内野手との意思疎通を欠かさずに、全員でアウトを奪いに行く意識は骨身に染みている。カットボールを最大の武器とする又吉にも、ホークスに移籍してからこんな出来事があったという。

「健太とも何回かあったんです。左打者の流し打ちを警戒して三遊間に寄っていたんです。僕も投げる前からそれを確認して、健太と同じ感覚で投げたんですけど、二遊間を抜かれるヒットを打たれた。でも、それは後で話を聞いたら『あそこだとは思わなかった』と。周りは単純に打たれたと思うかもしれないですけど、こっちとしてはショートとの意思疎通がありますよね。ポジションとか意図を把握しておけば、マウンドでも割り切って投げられますから」

 前田悠が降板した後、野手も次々と19歳ルーキーの様子を伺いに来てくれた。「緊張した?」。そう聞いてきたのは今宮だ。「『あんまりしていなかったですけど、打たれたので悔しかったです』って答えました。あとは『2軍と1軍はやっぱり違うやろ』って話を牧原(大成内野手)さんにしてもらって、そこで活躍されている選手と話せたことで、もっとずっとここにいたい気持ちにもなりました」と明かす。常勝時代でプレーし、自分より成功も失敗も経験してきた先輩の言葉は、1つ1つが重かった。

 登板翌日の2日に、出場選手登録を抹消された。明確になった課題を胸に「それだけの選手を抑えていかないといけない。もっとやらないといけないと実感しました」と19歳の決意は新たになった。ファームでもう1度、自分自身と向き合っている左腕。先輩たちの存在も、前田悠の道を照らしてくれている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)