家族のために「行って来い」 小久保監督の気遣い…牧原大成が第2子誕生に立ち会えた裏側

深々と頭を下げたソフトバンク・牧原大成(中央)【写真:竹村岳】
深々と頭を下げたソフトバンク・牧原大成(中央)【写真:竹村岳】

小久保監督が最終戦セレモニーで発表「牧原大成に第2子となる長男が生まれました」

 まさかの“サプライズ発表”だった。「行って来い」という言葉のおかげで、貴重な瞬間に立ち会うことができた。

 ソフトバンクは4日、ロッテ戦(みずほPayPayドーム)に1-0で勝利した。先発の大津亮介投手が6回無失点で、約3か月ぶりの7勝目をマーク。栗原陵矢内野手の20号ソロが決勝点となった。レギュラーシーズンラストゲームを白星で飾ると、試合後には最終戦セレモニーが行われた。マイクを握った小久保裕紀監督は、牧原大成内野手に第2子となる男児が誕生したことを発表した。

「最初にですね、1つ報告をさせてください。牧原大成に、第2子となる長男が生まれました。大成、おめでとう。試合前の出産に立ち会い、球場に駆けつけてセカンドを守る。大変な商売ですね。本当におめでとう」

 小久保監督が、セレモニーで口にした言葉だ。端的なメッセージの裏側では、指揮官自らが“サプライズ”で牧原大のために動いていた。耳にしたスタッフが「ホークスの一員でよかった」と、惚れ惚れする“美しい”スピーチだった。その舞台裏に迫っていく。

 牧原大は、この日のアーリーワークにも姿を見せていた。いつもと同じルーティンで試合に備えていたが、家族から「今、病院に向かっている」という知らせが届いた。1度、ドームを離れたのは「練習前です」。大切な家族が増えるかもしれない。貴重な瞬間になりそうだと指揮官に伝えると、小久保監督は快く送り出した。指揮官が、その舞台裏を明かした。

「もちろん。『行って来い』って言ったのよ。優勝が決まっていなかったら(立ち会いは)できないから、家族のところに行って来いって」

 すぐさま、病院に向かった。第2子誕生の瞬間に立ち会うことを、指揮官が許してくれたからだ。「監督が『これがもし優勝が決まっていなかったら残ってもらうけど、決まっているから。家族優先で』と言ってくれました」と深々と頭を下げた。「最初はスタメン予定だったので、迷ったんですけど。できるだけ立ち会って、戻って来られたら試合に出ようかなと」。スタメン出場が選択肢にあったところも牧原大らしいが、新生児に少しだけ触れて、すぐにドームに戻ってきた。試合は4回まで進んでいた。

 6回の守備から出場。試合後のセレモニーで小久保監督の口から第2子誕生が発表された。牧原大も「ビックリしましたね。自分で後から言おうと思っていたんですけど、言ってもらえたのは嬉しかったです」と驚いた。指揮官が事前に相談をしたのが、西田哲朗広報だった。

「試合後の囲み取材が終わってベンチに監督が戻って来られる時に、『牧原のことはまだ伝えていない?』って話になったんです。『伝えていないです』っていうと、『スピーチで言わせてもらうわ』と」

最終戦セレモニーで話すソフトバンク・小久保裕紀監督(左)【写真:竹村岳】
最終戦セレモニーで話すソフトバンク・小久保裕紀監督(左)【写真:竹村岳】

 あまりにも美しいサプライズ。牧原大も知らなかったのだから、西田広報も「『うわぁ、粋やなぁ。ここで言うんや』って思いました。監督らしいですよね」と、惚れ惚れするタイミングだった。タイトルを獲得しそうな選手たちにも触れ、1年間を総括する内容に「スピーチ抜群でしたよね。あの時に僕感じました、ホークスの一員でよかったって思いました。完全にVIVA(美破)でしたね」と、感服していた。

 牧原大は15日に32歳を迎える。新しい家族が増えて「今日からもっと頑張らないといけないなって思いました」と、背筋を伸ばしていた。本人が知らないところでしっかり準備し、絶好のタイミングで発表という最高の流れ。小久保監督の美しさが詰まったスピーチだった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)