2年前の悲劇…ホークス優勝はどう阻止された? 敵将・井口氏が明かす“10.2”の真相

試合後レフトスタンドのファンへあいさつするソフトバンクナイン【写真:荒川祐史】
試合後レフトスタンドのファンへあいさつするソフトバンクナイン【写真:荒川祐史】

井口資仁氏率いるロッテはシーズン最終戦で優勝M1のソフトバンクと激突

 ホークスが2020年以来、4年ぶりのリーグ制覇を果たした。開幕直後から圧倒的な強さを見せつけた文句なしの優勝に、就任1年目の小久保裕紀監督をはじめ、選手らも喜びに浸った。

 直近で最も優勝に近づいたのは2022年だった。優勝マジックを「1」として迎えたレギュラーシーズン最終戦で、まさかの逆転負け。試合前まで2位だったオリックスに逆転優勝を許した。この時、ソフトバンクの対戦相手となったロッテの監督だったのが、ホークスOBの井口資仁氏だった。同氏のホークスを語るコンテンツ(不定期掲載)の第10回は「特別編」として、ソフトバンクの悲願を阻止した夜を振り返った。

 2022年10月2日、ZOZOマリンスタジアムは異様な雰囲気に包まれていた。ロッテは本拠地で迎えたシーズン最終戦。対するソフトバンクは優勝マジック「1」で臨んだ一戦だった。両軍のファンがスタンドを占め、ともに声を張り上げていた。

「あのシーズン、自分たちは5位でした。でも、本拠地での最終戦は負けるわけにはいきませんでした。自分たちのホームで相手を胴上げさせたくない思いはありました。ふがいないシーズンだったし、いい形で終わりたいと思っていました」

 どの選手も目の前で相手の歓喜のシーンは見たくない。ましてやロッテの本拠地。監督だった井口氏も同じ思いだった。

「もちろん、対戦相手の胴上げは絶対に見たくない。ある意味屈辱でもあるので、阻止したい気持ちはありました。試合が終わった瞬間に相手がマウンドにいくシーンは見たくはないですよね」。しかもベンチ裏では、ロッテナインの闘志を掻き立てる“声”も聞こえていたという。「『どこの会場でビールかけする』なんて話も聞こえてきたので、優勝をさせないということではなく、目の前で胴上げさせないという思いがありました」と胸中を明かした。

井口氏は試合後にロッテ監督辞任を発表した

 試合はロッテが0-1のビハインドで迎えた4回、柳田悠岐外野手のソロで0-2とされた。柳田はその前にも守備で好プレーを見せていただけに、「キーになる選手がいいプレーをすると、いい流れになる。相手の優勝を決めなくちゃいけないという必死さは伝わっていました」。

 主導権を握られたロッテだったが、6回に山口航輝外野手の3ランで逆転。7回にも追加点を奪い、5-2とした。しかし、8回に柳田の適時打で5-3に迫られ、なおも2死満塁で打席にはジュリスベル・グラシアル内野手。最大のピンチを小野郁投手は遊ゴロで切り抜けると、最終回は当時ロッテのロベルト・オスナ投手が無失点で抑え、5-3で試合は終了した。

「8回はポイントになりました。あのシーズン、小野は流れを変える投手としてフル稼働してくれました」

 敗れたソフトバンクはオリックスと76勝65敗2分け、勝率.539で並んだが、直接対決の成績によりオリックスの優勝が決まった。目の前での胴上げを阻止し、意気揚々と勝利のハイタッチを行うロッテの選手たち。しかし、盛り上がるベンチとは対照的に井口氏の表情はどこか淡々としていた。

「試合後に監督を辞めることが決まっていたので、いろんな思いを抱えながらやっていました。そして古巣に優勝されたくない思いもありました。阻止するためにロッテの指揮官になったというのもある。負けたくなかった。他の4チームとは違った特別な感情がありました」

 試合終了後、井口氏はチーム低迷の責任をとって辞任を電撃発表した。ソフトバンクの胴上げ阻止よりも、「自分自身、最後の試合で勝てて終われたという思いの方が大きかったと思います。シーズン中はなかなか勝てなかったので」。さまざまな思いが交錯した「10.2」の“背景”だ。

(湯浅大 / Dai Yuasa)