プロ野球選手でも犯す「初歩的なミス」…本多コーチのアプローチとは
優勝争いの真っ只中だからこそ、起こることが許されない“凡ミス”。コーチ陣はどのようにして選手にアプローチするのか。13日のオリックス戦、2回の守備で見られたプレーだった。セーフティスクイズを外した際、飛び出した三塁走者を刺そうと、甲斐拓也捕手が三塁へ送球。挟殺プレーを狙った栗原陵矢内野手がボールを握り替えようとした際に落球し、その間にランナーが生還した。まさかのプレーで同点に追いつかれるシーンがあった。
「あんまり言えないんですけど、ちょこちょこミスもあったので。この時期はミスが出ても勝てばいいんですけど、でも先のことまで考えると初歩的なミスは防ぎたいなというところで。何があったかは言いません」
試合には8-3で勝利したものの、小久保裕紀監督の表情は晴れなかった。当たり前のことだが、プロの世界にはアマチュア時代からチームの中心だった選手が集まってくる。基本の形を徹底的に磨き、激しい競争を勝ち抜いた選手だけがグラウンドに立てる舞台だ。
そんな選手でも「初歩的なミス」をしてしまう。基本に立ち返るべき瞬間が訪れた時、指導者としてどのようなアプローチをするのか。本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチに尋ねると、「なるほどね……」と唸った。プロの世界でも当然、防ぐべき凡ミス。“足元”を問うような質問に、本多コーチなりの答えを教えてくれた。
「ミスが出たら練習するっていうのはもちろんですけど、練習では補えないミスっていうのがあるんですよね。基本的になんでもそうですけど、ミスが起こらないための“最善の準備”が必要ですよね」
毎日試合が続く中で、“基礎中の基礎”の練習に時間を割くことはできない。小久保監督は「何があったかは言いません」と、どのプレーが初歩的なミスだったのかは明言しなかった。それでも、本多コーチは栗原の落球が指揮官の苦言に含まれているのだろうと気付いていた。
「栗原の“ポロ”もそうだし、これはプロ野球選手として(ボールを)握り替えるまでの作業っていうのは、10球あったら10球成功させないといけない。練習というよりも、ベンチにいる時にでもグラブをはめて、何気なくこういうこと(握り替える動き)をしている人は意識が高い。グラブとボールの感覚っていうのは、ベンチの中でも養えるんですよ」
普段の何気ない行いから、凡ミスは防ぐことはできる。優勝が目前に迫る中で起こったイージーミス。やってはいけないということは誰よりも選手自身がわかっていることで、今更指導を行うものではない。だからこそ、本多コーチは強調した。「常にチームのルールを試合前に確認したり、『今日はこういうことが起こりそうだから、自分のうっかりミスがないように』と、失敗する前に自分自身で考えられるかどうか。これが“気づき”なんですよね」。選手自身には細かいプレーに対しても、常に備えていてほしいと願う。
「仕事ってそうなんですけど、相手から言われて『あー、そうでしたね』だったら簡単なんですよ。でも自分が生きる道って、やるべきことを自分自身で気づくというところが一番大事です。他人がそれを育ててくれるわけではないので。成長するためには、自分の意志が大事、ということです」
これから先の戦いは1つのミスが命取りになってくる。ミスをしたくてする選手はいない。それでも、後悔をしないためにも――。“自分自身の意志”をどれだけ磨くことができるか。それがチームを悲願へとまた一歩近づける。
(飯田航平 / Kohei Iida)