1か月ぶりの先発で見せた8回無失点…小久保監督も絶賛「今年一番」
たまっていた気持ちを、存分にぶつけた。若鷹が見せた“闘志”を、正捕手はどのように受け取ったのか。
ソフトバンクは15日、オリックス戦(京セラドーム)に3-0で勝利した。息詰まる投手戦の中で、延長12回1死満塁から栗原陵矢内野手が放った適時打が決勝点となった。相手先発は球界屈指の左腕・宮城。堂々の投げ合いを演じたのが、大津亮介投手だった。1か月ぶりの先発登板で、8回を無失点。試合前から「闘志」を感じ取っていた甲斐拓也捕手は、マウンドに上がる前に右腕と交わしていた言葉を明かした。
注目の立ち上がり。初回は先頭の太田に左前打を浴びたものの、2死一、二塁からセデーニョを空振り三振に斬ると、熱い気持ちは表情にも表れていた。3回から7回まで安打を許さないピッチングで中盤を締める。8回2死一塁、最後は太田を右飛に仕留めて降板となった。108球を投げて3安打無失点。堂々の内容だった。
2年目の今季は先発へ転向。開幕ローテーションを掴み、試合前時点で16試合に登板して6勝7敗、防御率3.13の結果を残してきた。しかし、6月29日の日本ハム戦(エスコンフィールド)で掴んだ6勝目を最後に、6登板連続で白星を掴めず。8月15日に登録抹消となった。当初、この日のオリックス戦に先発予定だった松本晴投手に代わって、巡ってきたチャンス。「闘志むき出しで行きます」と、感情を隠すことはなかった。バッテリーを組んだ甲斐が、感じたのは――。
「僕ももちろん行く準備として、僕だけの考えにならないように。大津もコミュニケーションをしっかり取るように、お互いで『いいものを出し合ってゲームを作っていこうな』っていう話はミーティングでもしていたので。それが今日は出せたかなと思います」
今季、大津の先発登板時に甲斐がマスクを被ったのは、8月7日のロッテ戦(ZOZOマリン)のみ。海野隆司捕手とのバッテリーがほとんどだったが、甲斐が準備を怠るはずがなかった。大津が見せた闘志には「もう結果に出ているじゃないですか」とキッパリ言う。「しっかり準備してきたと思いますし、そのままいい結果が出たんじゃないかなと思います」と、正捕手も太鼓判を押す結果と姿勢だった。
6月12日のヤクルト戦(みずほPayPayドーム)で、大津は5回を投げて7失点を喫した。高卒1年目の鈴木に2点打を許すと、小久保裕紀監督は「打てるものなら打ってみろという気持ちがバッテリーにあったのかどうかはすごく大事、この世界で。あそこで逃げとは思わないですけど、プロの先輩としてそういう気持ちをバッテリーが持っていたのか」と、大津と海野のバッテリーに苦言を呈していた。誰よりも負けず嫌いな右腕。闘志こそ必要な要素だと言われたことは今も残っている。だからこそ、この日に全てをぶつけた。
指揮官は「大津がよく投げましたね。宮城相手にあのピッチングをされては、なかなか点は取れないなという中でゼロできたんでね。今年一番くらいのピッチングだった」と絶賛した。本人も「何がなんでも勝つ気で投げました」と、チームの勝利が何よりも嬉しかった。勝ち星から遠ざかった要因は、先発ローテーションで回る中で感じていた疲労。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)からは、明確な課題も与えられていた。
「倉野さんからの課題で『開幕時の“真っチェ”に戻す』っていうのもあったので、この1か月でしっかり、自分の中でも戻せたつもりでした」
“真っチェ”とは、大津が操る球種の1つ。フォーシームのような縦回転だが、直球のようには伸びてこず、タイミングを外すことが狙いとなる球種だ。オリックスの山岡と行った昨オフの自主トレで重点的に磨いてきたボール。「体のメカニクス的にズレてきて、肘が下がってしまって。欲が出て空振りが欲しいから、抜きすぎていた部分があったので。そこを恐れずに120キロ台を絶対に出すっていうイメージで投げました」。とにかく腕を振ったことも、大津が見せた熱い気持ちだった。
優勝へのマジックナンバーは「7」となった。小久保監督も、今後のローテーションについて「5人目の枠は今、何人かで争っている」と明かし、その中に大津がいることを認める。甲斐も「これからもね。もっと大事なところで、大事な試合になってきて、もっともっとそういったところで投げる機会が増えると思います」と期待した。胸に刻み込んだ悔しさと闘志は、もう絶対に失わない。
(竹村岳 / Gaku Takemura)