松本裕樹は「男の価値を上げている」 ナインが次々と証言…甲斐拓也が語る“球速以上”のもの

楽天戦に登板したソフトバンク・松本裕樹【写真:竹村岳】
楽天戦に登板したソフトバンク・松本裕樹【写真:竹村岳】

9回途中からピンチで登板…小久保監督も絶賛「今までで一番じゃないか」

「男としての価値を上げている」

 ソフトバンクは11日の楽天戦(みずほPayPayドーム)に5-2で勝利した。序盤からリードを保って迎えた9回だったが、津森宥紀投手が2安打と四死球で2失点。バトンを託されたのが、松本裕樹投手だった。自己最速の159キロを計測するなど、4人の打者から3つのアウトを奪い、10セーブ目を挙げた。楽天打線が追い上げてくる中で、見せつけた圧倒的な役割。後ろを守っていたナインは、どのような印象を抱いたのか。「安心感がありました」。

 4回に山川穂高内野手の22号2ランで先制。6回に2点、8回に1点と順調にリードを広げて、9回を迎えた。選ばれたのは津森だったが、1死も奪えずに3点差となる。なお無死一、二塁でベンチは動き、松本裕を送り出した。村林は左飛。茂木には右前打を許したが、小深田は中飛で2死までたどり着いた。打席には主砲の浅村。159キロを計測したのは、浅村への2球目だった。最終的には157キロの直球で三ゴロ。大ピンチを無失点でしのぎ、チームに白星をもたらした。

 小久保裕紀監督も「浅村とのあそこのスイッチ入った時の球。多分今まで一番じゃないかってくらいの姿でした」と大絶賛。松本裕の姿に、後ろを守っていたナイン、ベンチから見守った選手はどのように感じたのか。今宮健太内野手や甲斐拓也捕手、周東佑京内野手らが印象を明かした。守護神の“背中”からあふれる気迫。全く動じない信頼を寄せる選手もいた。

「信じられないですね。結果も出し続けていますし、男としての価値を上げていると思います。すごくいいピッチングだったと思いますし、チームをサポートしようとしているのが見えるので、驚かされます」

 まずこう話したのは、ダーウィンゾン・ヘルナンデス投手だ。松本裕の前、8回を託される男は「いつも自分がマウンドに上がる時に思うのが、しっかりとこのイニングを抑えてマツに繋ぐことです」と頼もしさを寄せる。普段はクールな表情だが、マウンドに上がればピリピリとした空気が伝わってくる守護神。同学年のヘルナンデスも「彼の姿勢はすごいと思いますし、自分もクラブハウスにいる時は仮眠を取ったりしますけど、マウンドにあがれば自分を変えないといけないですから。そういう意味でも、グラウンドの内外でマツは素晴らしい人です」とリスペクトする一面だ。

 捕手として、ミットを構えていたのは甲斐だった。浅村への2球目、159キロについても「めちゃくちゃいい球だったっすね」と第一声だ。「同じ159キロでもなかなかないような、それくらいすごい1球でした。(球速以上の)ものがあったと思います」と、ほとばしる気迫までミットに収まっていた。プロ10年目の松本裕。甲斐にとってもこれまで何球と受けてきた投手だが、それほどまでに印象的な登板になったと言う。

 二塁を守っていた牧原大成内野手は「クローザーとしての安心感がありましたよ」と小さく頷く。少しずつ点差が縮まっていく展開は、後ろを守る選手たちにもプレッシャーになっていたはずだが「緊張感はいつ守っていてもありますけど、あんな展開になっても(松本裕が)頑張ってくれた」と振り返った。中堅だった周東佑京内野手は「いつも通りです」とサラリと言う。それも「ああいう場面で出てくる投手ですから。だからいつも通りですし、それくらい僕も信頼はしています」と、周東らしい表現で大絶賛だ。

「気合がみなぎっていましたね。背中から伝わるものがありました」と言うのは、今宮だ。遊撃から見つめた景色は「スピードを見ても、ですよね。9連戦という意味でも(大きかった)、マツがカバーしてくれましたね。さすがです」と頭を下げた。チームとしても苦しい展開から救いあげてくれたからこそ、感謝は尽きなかった。

ソフトバンク・松本裕樹【写真:竹村岳】
ソフトバンク・松本裕樹【写真:竹村岳】
159キロを計測したのは、浅村への2球目だった【写真:竹村岳】
159キロを計測したのは、浅村への2球目だった【写真:竹村岳】

 松本裕も、投球を振り返る。津森の乱調で訪れた登板だが「もともと僕はそんなに、直前までスイッチを入れないです。あまり(スイッチを)切る、切らないとかはなかったです」と自然体だったと語る。自分自身のスイッチを入れる瞬間は「マウンドに向かう時と、最後(ゲームセットを決めに行く)の1球くらいです」と、調整はもちろん、マウンド上でもメリハリを心がけているそうだ。その意識が結果となり、この日はチームを救ってみせた。

 159キロには「ここ最近の中でも一番(腕を)振りに行った球でしたし、指のかかりもよかった。それでいいコースにも行ったので、数字も出たのかなと思います」と自己分析する。球速へのこだわりを問われると「“ここぞ”の1球で、自分の中のマックスが出る、というのがこだわりですね。どうでもいいところで投げても意味がないので、ああいう場面で出たことがよかったです」と、松本裕らしい思いだ。160キロという大台が見えるところまできたが「いずれチャレンジする時がきたらいいなと思います」と足元を見つめた。

 全員が必死のプレーでリードを保ち、9回までたどり着く。ナインの思いを背負ってマウンドに上がるのが守護神だ。「そんなにはいろんなことは考えていないです。まずは、点を取られるのは嫌ですし、打たれるのも嫌なので。自分が投げたところを抑えるだけです」。投手としてのプライドがみなぎる熱い言葉。積み上げてきた信頼がオーラとなり、松本裕樹の背中から溢れ出している。

(竹村岳 / Gaku Takemura)