「何球でも投げてこい」 甲斐拓也の“顔面ブロック”…澤柳亮太郎に初勝利もたらした男気

ソフトバンク・澤柳亮太郎(左)と甲斐拓也【写真:矢口亨】
ソフトバンク・澤柳亮太郎(左)と甲斐拓也【写真:矢口亨】

甲斐がマスクでワンバウンド投球を受け止めた「執念のプレー」で失点を阻止

 咄嗟の判断力と高い技術で完封リレーをもたらした。ドラフト5位ルーキー澤柳亮太郎投手は1日の楽天戦(東京ドーム)で2番手として登板。待望のプロ初勝利を手にした。「特別なものだと思うので、ものすごく嬉しいですし、これを弾みに出場機会を増やしていけたらいいなと思います」。試合後に喜びを見せた中で、バッテリーを組んだ甲斐拓也捕手のプレーに感謝の言葉を口にした。勝利投手の権利を手にする直前、暴投による失点を阻止した甲斐のプレーに詰め込まれた技術とはどんなものだったのか。

 ドラフト6位の大山凌投手が自身2度目の先発登板。初回から全力でボールを投げ込み、3回までスコアボードに0を刻んだ。しかし、4回に2死満塁のピンチを作ると、マウンドを託されたのが澤柳だった。4点のリードがあったものの、ゲームの流れを左右する場面。澤柳は渾身のフォークで、小深田を三振に斬り、続く5回も無失点。その後を先輩の中継ぎ陣に託し、嬉しいプロ初勝利を手にした。

 甲斐の“顔面ブロック″が飛び出たのは5回だった。2死一、二塁で楽天4番の浅村を迎えると、初球が暴投となり走者がそれぞれ進塁。その後、1ボール2ストライクと追い込んだ後の6球目に投じたカーブは、本塁ベース手前で大きくバウンド。これに対して、甲斐はミットではなく、マスクで受け止めて失点を阻止した。このプレーの直前、甲斐はどのようなことを考えながらプレーしていたのだろうか。

「真ん中というか、体に当てて止める意識はあります。あそこに転がってくれたのでそこはよかったです。違う方に行くかもしれないですし、あれはしっかり前に落とせたので」

 こう語ったのは甲斐だ。マスクの形状には曲線があるため、ボールを受け止めた場所が、真正面でなければ、目の前に落とすことはできない。少しでもずれた場所に当たると、どこに転がるかわからず、失点にも繋がりかねなかった。「カーブは(ワンバウンドしたら)跳ねるので」。ミットで止めにいかなかった理由をさらりと答え、マスクで止めることも頭に入れたうえでの咄嗟の判断だった。

顔面ブロックを見せたソフトバンク・甲斐拓也【写真:矢口亨】
顔面ブロックを見せたソフトバンク・甲斐拓也【写真:矢口亨】

 失点するか、しないかで試合の流れも変わる場面だった。高谷裕亮バッテリーコーチは、「全然違います。ブロッキングに関して、すごく高い技術があるので。ボールに対して正面から入っていって、いいところに当てて落としたプレーでしたね」と、チームにとっても大きなプレーだったと語った。

 その上で、「しっかり見て、ちゃんと前に入っているっていうのもあると思います。まぁ執念ですね、最後は。それも含めて彼の高い技術だと思いますよ」と、このワンプレーには技術と、捕手として後ろに逸らすわけにはいかないという強い気持ちがあったと解説する。

 この試合、チームは7-0の完封勝ち。甲斐は本塁打を含む3安打4打点。「(澤柳が)なかなか難しい場面で自分の球を投げ切れた。本当にあの2人(澤柳と大山)がしっかり投げてくれたので。今日はあの2人がしっかり試合を作ったというところじゃないですか」。攻守で活躍を見せたが、試合後には好投したルーキー2人を讃えて球場を後にした。

 そんな甲斐の姿に対して、澤柳は「本当にありがとうございますって言いました。『もう全然ええよ。何球でも投げてこい』と言ってくれたので、かっこいいなと思いました」と、5回のピンチを凌ぎ、ベンチに戻る際の会話の中身を明かした。

 澤柳は4日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)で、1点ビハインドの9回に登板し、チームの逆転サヨナラ勝ちによって2勝目を手にした。この日の登板でも、甲斐が2つの盗塁を刺したことでチームに流れをもたらし、勝ちに繋がった。幾度となくピンチを救う甲斐の存在感は、澤柳にとってさらに頼もしく映ったはずだ。

(飯田航平 / Kohei Iida)