今宮健太が絶賛した洞察力…タイムをかけた若手に「さすが」 初安打で察知した“嫌な雰囲気”

マウンドに集まるソフトバンクナイン【写真:竹村岳】
マウンドに集まるソフトバンクナイン【写真:竹村岳】

7月30日の楽天戦でも7回2死までモイネロが無安打…捕手にとって“ノーノー”とは?

 試合の流れを読む力は、先輩の後ろ姿から見て学んできた。ソフトバンクは4日、日本ハム戦(みずほPayPayドーム)でサヨナラ勝利を収めた。1点ビハインドで迎えた最終回に、正木智也外野手の犠飛で追いつくと、柳町達外野手の中前打が飛び出し、劇的な勝利を掴んだ。グラウンドに立つ中で、海野隆司捕手の“読み”が光ったシーンだ。今宮健太内野手が「さすが」と絶賛した洞察力に迫っていく。

 先発した大関友久投手は日本ハム打線を7回1死まで無安打に抑える好投ぶり。1死から、日本ハムの4番・レイエスに右前にふわりと落ちる安打を許し、無安打は途切れた。松本剛を打ち取ったが、続く代打・野村に逆転2ランを浴び、大記録への期待から一転、苦しい展開へと変わった。

 1点を争う投手戦だった。緊迫の展開で、流れが変わり得る初安打。内野陣はすぐさまマウンドに輪を作った。最初に大関のもとに足を運んだのは、今宮だったが「違います」と、自分がタイムをかけたことを否定する。日本ハムの勢いを敏感に察知して、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)にマウンドに来てもらうように、ベンチに呼びかけたのは誰だったのか。チームリーダーの今宮が明かした。

「海野が呼んでました。来てほしいなとは思ったんですけど、海ちゃんも呼んでいたので、そこはさすがですね」

 今宮自身もグラウンドで感じるものがあったから「(自分も)大関と話をしながら、7回まで行っての初ヒットだったので、嫌だなと思っていたんですけど。海ちゃんが呼んでいたので、さすがなと思いました」と絶賛する。松本剛を左飛に抑えた後も、海野は大関と会話をするためにマウンドに向かうなど、全力で1点のリードを守ろうとしていた。結果的に野村に2ランを打たれはしたが、海野の姿勢からも、7回がこの試合の鍵であることがドーム中に伝わっていた。

 海野自身は、どのように試合を見ていたのか。「ああいうヒットで出て、(日本ハムの)打線の調子がいいので。とりあえず次のバッターを抑えよう、ということです。あと、五十幡も代走で出てきていたので、そこも含めて話をしました」と説明する。安打こそ打たれたが、集中するのは1つ1つのアウトだけ。俊足の五十幡の存在も頭に入れておくように、バッテリーも注意を怠らなかった。

 7月30日の楽天戦(楽天モバイル)では、リバン・モイネロ投手が7回2死まで無安打投球を見せた。勝利という結果で評価される捕手というポジション。その試合でマスクを被っていた甲斐拓也捕手はノーヒットノーランを「どうでもいい」と、ハッキリと答えた。それほどまでに、チームの勝利だけを見据えていた。5日経ったこの日、海野も甲斐と同じような状況となったが、甲斐の考えに同調していた。

「(無安打に抑えていることは)どうでもいいっていうか、展開も展開だったので、1-0で。ノーヒットかもしれないですけど、正直、展開次第では中継ぎが出てくることもあったと思います。自分もその頭があったので。正直ノーヒットノーランとかいうより、1点差でどう勝つかっていうことは考えていました」

 松本剛を左飛とした後、海野が今度は1人でマウンドにいった。「2回目に関しては、大関が呼んでいたので、その話をしていました」と理由を明かす。日本ハムベンチが代打に送り出したのが、野村。「どういう風に攻める? みたいな感じでした、それだけです」と、考えを擦り合わせた。打たれるか抑えるか、結果は誰にもわからないが、打ち取るビジョンを最大限にすり合わせて、バッテリーは最善の努力をした。

 海野にとっての“お手本”は一番近くにいる。マウンドにいった行動は「それは拓さんを見てって感じですね。拓さんもああいう場面とかで絶対呼びますし、それも拓さんから学んでいることです。教えてもらうのではなく、見て学んでって感じです」と、理由を語る。もし、今ここに立っているのが“甲斐さん”だったら――。そう思うと、自然と足はマウンドに向かっていた。「それを自分はずっと見てきてたので、この展開だったらこうだよな、って。拓さんのワンプレーを見ながら学んでいる感じです」と、一緒に過ごす毎日が勉強だ。

「1-0で勝つつもりだったので、ホームランだけはって考えてはいましたね」

 試合の展開を左右した7回の攻防。逆転2ランを浴びたことはバッテリーにとってショックも大きかった。しかし、“何かが起こる”と察知していた海野の感覚は的中していた。9回には甲斐が盗塁を2つ刺し、サヨナラ勝ちに繋がる流れを作った。その姿も海野にとってはさらなる成長の糧になったはずだ。

(飯田航平 / Kohei Iida)