失敗を嘆くのは「もったいない」 “配球の夢”で眠れない夜…大関&柳町が知る海野の苦悩

ソフトバンク・海野隆司(右から2人目)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・海野隆司(右から2人目)【写真:竹村岳】

小久保裕紀監督が明かした海野の「夢」…引き出した大関友久の「良さ」とは

 夢に「配球が出てくる」ほど、悔しさも怖さも味わっている。今季が5年目となる海野隆司捕手が、1人の捕手として頼もしくなろうと成長しているところだ。ソフトバンクは29日、オリックス戦(みずほPayPayドーム)に4-1で勝利した。今宮健太内野手の同点適時打と、貴重な追加点となる適時打を放つ活躍を見せて、後半戦最初のカードを3連勝で飾った。

「8番・捕手」で出場したのが海野だった。7月、チームは10勝9敗。先発マスクの内訳は甲斐が12試合で、チームは9勝3敗。海野は7試合のスタメン起用で、1勝6敗だった。分かれてしまっていた明暗。海野も「記事で見たんですけど、別に言わなくてもわかっているので。それは一番自分が感じている」と真っすぐに受け止めていた。そんな苦しむ海野の姿を、同期入団で同学年の大関友久投手、柳町達外野手はどのように見守っていたのか。

 この日の先発を務めた大関。今季は開幕から甲斐とバッテリーを組んでいたが、5月19日の西武戦(みずほPayPayドーム)からは8試合連続で海野とバッテリーを組んでいる。5回1失点で、6月26日のオリックス戦以来、自分を1か月ぶりの白星に導いてくれた。1人の投手として「捕手・海野」の良さはどんなところに感じているのだろうか。大関は「緩急」がポイントだと挙げる。

「1つ、具体的にいうとカーブの使い方が上手だと思います。あとは、最善の選択。1球1球のボールを慎重に選んでくれていると思いますね」

 昨年までも使っていたカーブだが、今季から本格的に球種の1つとして、組み立てるようになった。140キロ台中盤の直球と、緩急を生かしたコンビネーションで「今までになかった僕の良さを引き出してくれたきっかけ」と、新たなスタイルに気づかせてくれた海野に信頼を置く。「しっかりと1つの球種としてカーブを使い始めました。ここ何試合かは効いているので、そこは海野があっての配球というか、引き出してくれたんだと思います」と深々と頭を下げていた。

 小久保裕紀監督が「配球が夢にまで出てくると言っていました」と語るほど、今季は1軍で多くの経験を積んでいる。捕手というチームの勝利に直結する重要なポジジョン。海野は「あの時こうやったな、みたいなことはやっぱり出てくるし、目をつぶってても考えてしまうんで、それは今年に入ってずっと続いている」と、これまで以上の苦悩を抱いている。夢にうなされて目を覚ますなんてことはないそうだが「あまり深く眠っている感じじゃないです」。重圧と緊張感を背負う、27歳の心からの本音だった。

 苦しむ姿は、同期もしっかりと見つめている。「7番・左翼」で出場した柳町は、2019年ドラフト5位で入団した。2位指名だった海野の苦悩について「僕が言うことではないし、同じ苦しみをしているわけでもない」とした上で「僕も海野も、経験値として蓄えて、次に生かして、というのを積み上げていくしかないかなと思います」と背中を押す。

 柳町自身も、今季は開幕からファームでの日々が続いた。2軍で3割以上の打率を残しながらも、1軍に初昇格したのは5月28日だった。小久保監督がプロとして悔しさや怖さは「乗り越えるしかない」と言うように、柳町も「1回の失敗でクヨクヨしていたらもったいないですから。一喜一憂していたら、もっと悪いことに繋がってしまうかもしれないです」と頷く。今季が5年目。同じ年数を歩んできた中で、生まれてきた思いもたくさんある。

 キャリアハイは2022年の47試合で、この日は今季39試合目の出場。そのうちでスタメン出場も29試合と、1軍でしか味わうことができない経験を積んでいるところだ。1軍に帯同させている小久保監督も「今は迷いがありますね。出だしは良かったんですけど」と言う。「何回か対戦すると傾向が出て、相手打線も対策も練ってくる。それを乗り越えて本物。そこで外したら本物に行く前に終わってしまう」。今はしんどい思いをしているかもしれないが“本物”になってもらうためにも、これからも先発マスクを託し続けたい。

 海野は捕手として、とにかく守備面に集中しているという。「ずっと思っていたことだし、自分も言っていたことなので。バッティングっていうのは二の次って感じです。この打線なので、自分が打たないでも誰かが打ってくれるし。最低限やることやっていたらって感じです」。小久保監督からの言葉についても「そうなれるように頑張るだけですね」と意気込んだ。夢にまで見る配球や、マスク越しの光景。この日の夜も、さまざまな思いを抱えて試合を振り返っているはずだ。

(飯田航平 / Kohei Iida)