「めちゃくちゃ行きたい」けど“我慢” 小久保監督が選手と食事に行かない本当の理由

鷹フル単独インタビューに応じたソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:栗木一考】
鷹フル単独インタビューに応じたソフトバンク・小久保裕紀監督【写真:栗木一考】

「合わない人」との付き合い方、指揮官として捨てた感情…小久保監督の本音とは

 ソフトバンクの小久保裕紀監督が、鷹フルの単独インタビューに応じた。今回のテーマは「人付き合いとマネジメント」について。チームの勝利を至上命題として、時には情を取り除いた采配を執らなければならない1軍監督。選手との距離感をどう考えているのか。またグラウンド上とは全く違うというプライベートでの人付き合いについても、本音に迫った。

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 ホークスの監督も、グラウンドを離れれば1人の人間。性格的に合わない人とどう接しているのかと問われた小久保監督は、あっけらかんと応えた。「接さなくていいなら接しないですよ。嫌なものには近づかない。プライベートは利害関係がないから無理しなくてもいいので。嫌なものは嫌でいいと思うんですよね」。考えは実に明快だった。

 監督としてユニホームを着れば、事情はもちろん変わる。「選手を預かっている分には、そういうわけにはいかないので。何のために監督としてユニホームを着て、契約しているのかを考えた時には、それを抜きに接しますよね」。仕事をする上では人間的な好き、嫌いは関係ない——。言葉にするのは簡単だが、実行するのは難しい。小久保監督はどう向き合っているのか。

「やっぱり『目指せ世界一』を掲げている球団なので。そこに向かってチームを持っていくのが仕事だと思っている。だから好きだろうが嫌いだろうが関係なく、どうしたら勝てる選手をまとめ上げていけるか。加えて、僕の時だけ勝ってもだめなので。常勝時代がなければ、日本のファンからも認知されない。そういう点で、数年先を見据えて『こいつならクリーンアップ張れるかな、レギュラー取れるかな』みたいな見方をしていますね」

 大きな目標を実現する道中では、人の好き嫌いという私情はあくまでささやかな問題に過ぎない。与えられた職務を冷静に分析し、真正面から取り組むことが、“小久保流”の解決策といえる。さらに「目指せ世界一」のためには、自らも礎の1つになろうという覚悟を示した形だ。

 本当は食事に行きたくてうずうずしていると明かした小久保監督
 本当は食事に行きたくてうずうずしていると明かした小久保監督

 選手との接し方についても、小久保監督ならではの考えがある。「選手とは食事に行かないですよ。例外的に何かのお祝いで行ったりすることはもちろんありますけど、基本的には距離は取ってます。そこはマネジメントとして大事だと思うので」。昨秋に就任会見でも、「監督と選手が近くなるとコーチの存在が死んでしまう」と口にしていた通り、一定の距離感を取っている。

 その考えは監督として初めて前半戦を戦い終えた今も変わらない。「行くのは(奈良原浩)ヘッドコーチと倉野(信次)投手コーチ。それは(監督から)一つ下の役職だから。それを飛び越してほかのコーチと行くと、その2人が死んでしまうので」。全ての役職に適正な仕事が存在するように徹底している。

 人間・小久保裕紀としての本音はどうなのか。そう聞くと、指揮官は思わず相好を崩した。「本当はめちゃくちゃいきたい。現役のころは分け隔てなく(食事に)行っていたんで。スタッフはもちろん、ピッチャーもよく連れて行きましたよ。僕はこれという店に通いだしたら長いんで。20年以上行っている店ばかりなんですけど。現役当時の選手はほぼほぼ連れて行っていますよ」

 本当は食事に行きたくてうずうずしていると明かした小久保監督。それでも自らを律しているのは、本来の性格を冷静に理解しているからだ。「それをしちゃうと、やっぱり情が移るじゃないですか。試合に勝つためにスパっと交代とか、ここは代打とかせないかんのに、できない自分がいるのは分かっているから。だから行かないです。ははは」。

 試合中のベンチでは考えが見えない表情も多い小久保監督。さまざまな感情を胸にしまい、ただチームの勝利のためにタクトを振るっている。4年ぶりのリーグ優勝、そして日本一への険しい道のりを走り切った先にある、本来の素顔が見たい。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)