羽を伸ばすようにして、1軍で伸び伸びと戦っている。なぜこんなにも、チャンスを得た選手が次々と活躍するのか。ソフトバンクは6月を終えて48勝20敗3分け。首位を走っている中で、多くの若鷹が1軍を経験していることも今シーズンの特徴の1つだ。選手を送り出す側の松山秀明2軍監督が考える要因とは? 青学大の先輩後輩の関係でもある小久保裕紀監督の起用を、具体的に語った。「自分の目を信じている」。
5月31日の広島戦(みずほPayPayドーム)で、柳田悠岐外野手が右ハムストリングを痛めて戦線離脱した。チームにはショッキングな出来事だったが、小久保監督はナインに「柳田の穴を埋めようと考えなくていい」と伝えた。空いた椅子を奪おうと若鷹たちも猛アピールを続ける日々。5月28日に昇格した柳町達外野手は打率.338、正木智也外野手も打率.353と結果を残している。
その他にも、6月15日の阪神戦(みずほPayPayドーム)で、笹川吉康外野手がプロ初本塁打を放ったのは記憶にも新しい。なぜ、2軍から昇格した選手が次々と1軍で躍動できるのか。松山2軍監督は「ずっと小久保監督が2軍の試合をよく見られている」と、その要因を語る。
「正直、想定内ではあるんです。いい状態だから上げているわけですから。こっちはどちらかといえば受け身なので『今誰がいいですか?』って言われたら状態を僕らは伝えますけど、僕らから『こいつ今いいから上げましょう』と言うことはないわけじゃないですか。僕らはいい選手をいいコンディションに持っていって、1軍で使ってもらうことで、それが形になっている。いいタイミングで選んでもらっているのはあると思いますし、それは小久保監督が2軍の試合をよく見ているからだと思います」
正木を昇格させた6月21日のロッテ戦(北九州)では、即スタメンで起用して2安打1打点の活躍を見せた。ウエスタン・リーグでは打率.317を記録していただけに、小久保監督は「今の2軍の状態で上で勝負できんかったら厳しい」。さらっと振り返ったが、首脳陣にすぐ使うだけの度胸があるから、若手も勇気を持ってプレーできる。松山2軍監督も「普通はできないんですけど、(小久保監督は)2軍の監督のまま1軍の監督をやっている。自分がやってきたことをブレずに、2軍のままやられている感じはします」と、その凄さを表現した。
世代交代がテーマと言われ、数年が経っただろう。小久保監督も、自分の次に指揮を執る人間のことまで頭に入れて、タクトを振っている。その姿勢について松山2軍監督も「タイプ的には、目先の1勝にはこだわっていないと思います。トータルで勝てればいい、と。そういう目標設定をきちっとしているので、その1試合を使ってどうなるのか。目先だけの野球をしていない感じはします」と印象を語る。若鷹を積極的に入れ替えて起用しているのも、数年先のチームまで見据えていることが理由の1つだ。
1年目の廣瀨隆太内野手は、5月28日に1軍に昇格した。初安打が生まれたのはプロ17打席目。首脳陣がブレることなく起用したから、待望の快音が響いた。「よく我慢して使ってもらえていますよね。なかなかね、我慢してもらえないのが当たり前ですし、そこは(廣瀨も)感謝した方がいいかもしれないですね。16タコで使ってもらえている。普通は途中で落とされますよ」。送り出した松山2軍監督すら驚く継続した起用法。“我慢”こそが、小久保監督の真骨頂だ。
「廣瀨に関して言えば、小久保監督だから使ってもらえているところもあると思いますよね。使ってもらえたから今の(打率.)278っていうのが残っている。そこの我慢強さ。小久保監督は多分、自分の目を信じて使っている。成績を追っているのじゃなくて、選手たちのプレーの中を見て選んでくれているので、選手たちにとっては助かるんじゃないですか」
勝敗の責任を背負うのは自分だから、選手の能力を心から信じ、スタメンを託す。だから、ブレることなく采配ができているのではないかと松山2軍監督は言う。日々のコミュニケーションも「小久保監督とべったり取っているわけではなくて、そこは要所要所です。だから(奈良原浩)ヘッドコーチとはよく連絡を取ります」と、首脳陣も絶対に思考を止めない。「お互いに情報を共有しながら、選手が活躍してくれてチームが勝つことが僕らの一番の喜びですから」と、1人1人がベストの仕事を果たしている。
1軍は結果が全ての世界だが、ファームでは育成や教育も重要となる。松山2軍監督も指導者のキャリアの中で「監督」を務めるのは初めて。「2軍から行った選手が打ったのか、エラーしていないのか、柳町とか正木は『打ったかな』から始まりますけど、内野手は『エラーしていないかな』ですよね。それは親心ってやつかもしれませんね」と注目して見守っている。ブレずに1軍を引っ張っている小久保監督の凄さをより実感したからこそ、ファームも全力で支えていく。