5月7日の日本ハム戦…甲斐拓也の治療中に投球練習を受けたのが野村勇だった
なぜ“緊急捕手”を務めることになったのか? ソフトバンクは34試合を終えて23勝9敗2分。勝率は7割を超えて、パ・リーグの首位を走っている。主力選手がしっかりと活躍を見せる中で、ファンの注目を集めたシーンがあった。5月7日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム福岡)、延長12回を戦ってサヨナラ勝利した試合だ。投球練習を、野村勇内野手が受けるという珍しい光景があった。
先発の有原航平投手が8回1失点の好投。打線は相手先発の山崎福也投手から1得点と苦しめられて、試合は9回に突入した。マウンドにはロベルト・オスナ投手。1死となり、上川畑が死球で出塁した。その際に跳ね返ったボールが甲斐拓也捕手に当たり、治療のために時間を要した。マスクとキャッチャーミットを手にグラウンドに出てきたのが、野村勇だった。
甲斐と海野隆司捕手の「捕手2人制」を貫き、開幕以降を戦っている。これまでも首脳陣は、仲田慶介内野手を緊急時の捕手に指名するなど、選手とともに準備は重ねてきた。実際に出場するという事態ではなかったものの、なかなか見られない野村勇のマスク姿。そこに至った経緯を、本人が明かす。
「拓さん(甲斐)が本当にやばそうだったらしくて、隆司が準備しに行くから『一瞬受けてくれ』ってなりました」
甲斐が交代するとなった時に備えて、海野は準備をしなければならない。その間、オスナの投球練習に付き合うために野村勇が飛び出したというわけだ。内野手が、投手の球を捕ることは日常でもほとんどない。「めっちゃ緊張しましたよ。バリ球伸びてたっす」と、貴重な瞬間を振り返った。奈良原浩ヘッドコーチも「海野が準備していたし、キャッチャーが2人しかいないからね。でも野球選手だから、座ってマスクしてブロッキングするわけじゃないし、速い球を捕るだけだからね」と補足する。
海野が準備を始めた時、高谷裕亮バッテリーコーチは甲斐の隣にいた。野村勇が選ばれた経緯は、ベンチにいなかったため「わからないです」と言う。その上で「ダメだったら、海野に準備してもらわないといけない。あとは誰が捕れるのかっていうので、そこはベンチ(が話して決めた)だったんじゃないですか。『誰が行けるんや』って話で、海野か? 仲田か? って話していたんじゃないですかね。僕が話したわけではないです」と推測する。
甲斐のそばにいた高谷コーチが、ふと横を見る。野村勇が受けている姿を見て「似合っててビックリしましたよ。『勇か!』って思った(笑)。誰かが代わってきたなと思ったら」と、バッテリーコーチをも驚かせるほど堂々としていた。捕手がマスクや、プロテクターを着用している姿は見慣れているもの。高谷コーチも「ファームの時に1回、ファーストがあったかも……。それも“あったかな”くらいの記憶ですけど。でも左バッターの時とかめちゃくちゃ怖いですよ」と、慣れないポジションを務めた時の新鮮さは、今も覚えている。
高谷コーチが思い返したのは、2019年5月4日のオリックス戦。甲斐と、千賀滉大投手がバッテリーを組んだ試合だ。甲斐の足にファウルボールが直撃し、タイムが取られた。颯爽とベンチから飛び出してきたのは、当時背番号4だった川島慶三(楽天1軍打撃コーチ)だった。「昔に1回、慶三がやったことがありましたよね。慶三は捕るの上手かったですよ」と懐かしそうに話す。野村勇のマスク姿も、いつかは誰かが語り継ぐのかもしれない。
万が一、野村勇の捕手起用の可能性は「聞いたことないです」とキッパリ否定した。あくまでも一時的ではあったものの、新鮮な姿を見られたことをファンは喜んでいた。高谷コーチも「そこらへんがバズるんでしょう(笑)」と、こちらの意図まで理解して、笑顔で応じてくれた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)