延長12回無死満塁で周東佑京がサヨナラ犠飛…「理貢に任せようと思いました」
歓喜の輪ができた後、真っ先に声をかけてくれた。きっと、ギータなりのリーダーシップだ。ソフトバンクは7日、日本ハム戦(みずほPayPayドーム)に2-1でサヨナラ勝利した。延長12回無死満塁から、犠飛を放って試合を決めたのは周東佑京内野手。そして、サヨナラのホームを踏んだのが代走から出場した緒方理貢外野手だった。ゲームセット直後、柳田悠岐外野手からかけられた言葉を明かす。自分の体を心配してくれる優しさを、十分に感じた。
有原航平投手と、山崎福也投手による投げ合い。同点のまま、試合は9回を戦っても決着はつかず、延長戦に突入した。12回、先頭の近藤健介外野手が左翼線に二塁打を放つと、ベンチは緒方を代走に送った。「最初は無死二塁だったので、とにかく『やってはいけないこと』を頭に入れていました。外野も、内野の位置も見て、やってはいけないことを考えていました」と心境を振り返る。
申告敬遠とヒットで塁は埋まり、周東佑京内野手が代打で出てきた。打球が左翼に上がると、緒方も帰塁。サヨナラのホームを目指して、最後は頭から突っ込んだ。ベンチから出てきたナインは、すぐさま周東のもとへ向かい、歓喜の輪ができる。喜びが少し落ち着いた後、緒方に声をかけてくれたのが柳田だった。
「『大丈夫か!?』って言われました。あとは『セーフか? アウトか?』って聞かれたので『セーフだと思います』って答えました」
本塁にヘッドスライディングした時、捕手の伏見とぶつかるような形になってしまった。柳田も「『大丈夫か?』って。なんか痛そうにしていたので」と明かす。チームの勝利はもちろんだが、左手をねじ込んでセーフを勝ち取った若鷹の体を何よりも心配していた。緒方の走塁についても「ナイスゲームです。よかったです」と、にっこり笑う。緒方は柳田の人柄を「飾らない人」と表現するが、サヨナラ勝ちという大興奮の中でも、その姿は同じだった。
「アウトか? セーフか?」とも問われた。日本ハムにとっても1点を失えば負けが決まる場面だっただけに、リクエストを要求。プレーの当事者となった緒方は「セーフだと思いましたし、心配することなくリプレーは見ていました」と振り返る。2022年にウエスタン・リーグで盗塁王に輝いた足がしっかりと生きた場面だった。打った周東も「理貢が三塁ランナーだったので、ある程度は浅くても勝負をかけられると思いました。フライを上げて、理貢に任せようと思いました」と感謝していた。
緒方は無死一、二塁からリチャード内野手が放った中前打で三塁ストップ。代走として送り出した小久保監督は「あの打球(リチャードの左前打)で返ってこられないとか。あれで飯を食っているんで」と言及した。緒方も「1軍なので、僕の好き勝手に走るようなところじゃない。本当に代走が勝ちに繋がることもありますし、相手に流れが行ってしまうこともある」と代走の重さをしっかりと理解して、飛び出したグラウンド。無死一、二塁の時点での心構えを、こう振り返る。
「ヒットになるとは思いましたけど、ノーアウトという方を優先しました。何が何でも行くという選択肢は僕の中にはなくて、次に佑京さんが代打で出るということも知っていましたし。あそこでやってはいけないのは飛び出しだったので、なんとかしてくれると思って、そっちの方に重点を置いていました」
やってはいけないこと、と何度も繰り返した。周東は打率.315に加え得点圏打率.316。今の存在感を心から期待、信頼して三塁で止まるという選択をした。無死一、二塁での“最悪”は、飛球やライナーで飛び出してダブルプレーになってしまうこと。指揮官の言葉に反省しながらも「少し大事を取りすぎたのはあったかもしれないです」と、絶対に次に生かそうとする表情が印象的だった。首脳陣から必要とされている確かな実感があるからこそ、緒方にとっても学びの多いワンプレーとなった。
試合後に緒方は「まだ直接話していないんですけど、多分明日、自分の考えも(監督に)言いながら、今後もそういう場面も絶対あると思うので。監督が『そうしてほしい』と言われたことを、やるのが僕の仕事。またしっかり練習していきたいと思います」と前を向いた。勝ったから、前向きに反省できること。首位をひた走るチームのワンピースとして、自分だけの役割で支え続ける。
(竹村岳 / Gaku Takemura)2024.05.08