「サファテも速かったですし、スアレスも速かったんですけど…」
自らが形にしてきた直球打ちの“極意”が、発揮された。納得の表情で振り返るアーチだ。ソフトバンクは6日、日本ハム戦(みずほPayPayドーム福岡)に9-4で勝利した。2本塁打3打点とヒーローになってみせたのが、山川穂高内野手だ。直球系の球種をとらえた2本塁打、明かされたのは「ストレートを打つ上で大事なこと」。プロ11年のキャリアの中で「一番球が速かったのは和田さんです」と、その理由を語った。
初回1死一、三塁で打席へ。先制の好機ではあったが、相手先発の北山の直球に空振り三振に倒れた。2打席目は3回無死一塁。今度は北山の145キロ直球を左翼席に運び去った。「北山投手は対戦していて、球がすごく伸びるとわかっているんですけど、久々に対戦すると『それでもやっぱり強い』っていうくらい伸びている。あのホームランは修正できました」と頷く。「バットの出し方というか、球の待ち方とかの方が大きいです」と、1打席目の三振からしっかりとアジャストしてみせた。
5回無死では左腕・北浦のツーシームを左中間テラスに運んだ。「こういう試合だともちろん、1打席目に打てたらと思うんですけど、コンちゃん(近藤健介外野手)がカバーしてくれてよかったです」と振り返りながら「たまたま甘い球が来た。個人的には2本目が好きでした。テラスを使えたので(笑)」と笑う。2本とも直球系をとらえたアーチだった。通算226本塁打のスラッガーの引き出しには、直球を打つための“極意”があるという。
「(直球を打つことは)すごく大事なことだと思います。真っすぐを待って真っすぐを打ち返すことももちろん大事なんですけど、僕の場合は真っすぐが来るカウントにしないといけない。読み、待ち方も含めて、何でもかんでも真っすぐっていうふうに僕はできないので、難しいところでもあるんですけど。投げさせなきゃいけないですね。そういうやり取りの中で僕もやってきているので」
この日の1本目は初球、2本目は1ボールからとらえたものだった。得意な球種もそれぞれにあるはずだが、ほとんどの投手が高確率でカウントを取れるのがストレート。山川ほどの実力なら、警戒されるのは当然のことだ。「カウントが進んでいかないと。今日は初球から行きましたけど、初球から甘い真っすぐというのはあまりない。そういうのも含めながらです」と自らカウントを整え、直球を“狙える状況”を作り出す。経験と能力が成せる高等技術だ。
この日、山川は直球系をとらえたが、チームメートや他球団の選手たちを見渡せば半速球を得意とする打者もいる。「どちらかと言うなら、直球の方が得意ですか」と問われた山川は「えーとですね……。なんて言えばいいんですかね、深い話になっちゃうんですけど」と切り出す。直球を打つということに対する自分の考えを、言葉を選びながら語った。
「真っすぐにも、めちゃくちゃいっぱいの種類があるんです。打ちやすい真っすぐを投げる人もいれば、すごく打ちづらい真っすぐを投げる人もいる。その人の真っすぐは、他の人にとってはシュートかもしれない、カットボールかもしれない。真っすぐにもすごくいっぱいの種類があるので、そういう意味では真っすぐがどう(得意かどうか)というのは難しい答えですね」
直球がナチュラルにシュートしていく投手も、カット気味に食い込んでいく投手もいる。打者の左右によって見え方も違えば「フォーシーム」という括りでも、千差万別というのが山川の考えだ。
この日は、和田毅投手が今季初登板。指名打者だった山川は、ベンチから投球を見守っていた。「ピッチャーのメカニズムとかはわからないんですけど」。投球内容に言及することはなかったが、プロとして3298打席に立ってきた山川が「一番速い」とうなるのが、和田のストレートだった。
「僕、和田さんにも直接言ったことあるんですけど、プロ野球に入って一番速かったのが和田さんなんです。とにかく当たらない。僕が西武の時に和田さんと対戦して、おったまげたっていうか『速っ!』って思って、球速表示を見たら145キロとか、146キロでした。これはやっぱりすげえなって。ストレートを待って振っても当たらなかったので。和田さんって僕にとっては“プロの球”というか」
山川自身が「ハッキリ覚えています。ベルーナドームで、2017年です。その球が忘れられないくらい速かった」と言う。同年の対戦成績は3打数1安打だったが、脳裏に焼き付いているストレートだ。「150キロを超える投手は山ほどいるのに。伸びているという言い方をすればもちろんそうなんですけど、なんか当たらないっていう……。本当に冗談抜きで和田さんで、その次に速いと思ったのが成瀬(善久)さんです」と絶賛の言葉が続いた。
「(デニス・)サファテもめっちゃ速かったですし、(ロベルト・)スアレスも速かったですけど。山本由伸、佐々木朗希とかもいますけど、とにかく和田さん。すっげえ速いと思いましたし、成瀬さんもめっちゃ速いです」
和田も「その話は聞きましたね」と、しっかりと覚えていた。「お世辞でしょうね(笑)」と笑ったが、43歳となって迎えたこの日も146キロを計測していた。「悪くはなかったですね。5回くらいはカットボールも上手く投げられましたし、指のかかりは悪くなかったです」と頷く。4点は失ったものの、次回に生きるものが確実に見つかった内容だった。
お立ち台で山川は「そのうち、ベースも上がってくる」とキッパリ言った。4月30日の楽天戦ではポンセから左中間に6号ソロを放つなど3安打を記録した。以降の4試合では1安打に終わっていたが「あの時(楽天戦)のボールの見え方が非常によかった。その後に試合を重ねてヒットは打てなかったんですけど、僕としては感覚はよかったんです。打球も正面をつくことが多かったり、そういう時に『もうちょっとだな』と思っていました」。自分の中でしっかり兆しは感じ取っていた。
打率は変動する数字だが「ホームランと打点は減らないので、打てる時に打てたら」とこだわりを口にする。8本塁打、33打点はリーグ2冠の数字。圧倒的な練習量と、苦難を乗り越えてきた経験。山川穂高に裏打ちされた全てが今、数字となって表れている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)