前田悠伍は「自分の感覚を大事にしてる人間」
元選手が見ても、ドラ1左腕のポテンシャルは無限大だ。ソフトバンクのドラフト1位ルーキー・前田悠伍投手が、20日に行われたウエスタン・リーグ広島戦でプロデビューを果たした。2番手として7回にマウンドに上がり、自身の失策もあって1回2失点の内容。「もっと細かいところまで練習していかなきゃいけないと今日は思えた。それが一番の収穫かなと思います」。こう振り返った前田悠の初登板には多くの注目が集まった。
左腕に期待を寄せるのはファンや首脳陣だけではない。「あれが(昨日のピッチング)前田悠伍なんだとしたら、前田悠伍じゃないんじゃないかな? そのくらい、いろんな人の期待を背負ってる選手だと思うんで。覚悟を決めてやってほしい」。こう話すのは、今年から球団広報のファーム担当に“転身”した重田倫明広報だ。
千葉英和高、国士舘大を経て、2018年の育成ドラフト3巡目でホークスに投手として入団した重田広報。2022年にはウエスタン・リーグで44試合に登板して、7勝3敗4セーブ、防御率3.10の好成績を残したものの、昨季終了後に戦力外通告を受けて今年から広報として球団の職員となった。
ファームでの生活が続く前田悠と重田広報は多くの時間を共有している。間近で前田悠を見てきた重田広報だからこそ、初登板では普段通りの実力を出しきれていなかったと率直に感じた。重田広報は普段の前田悠をどのように見ているのか――。ホークスのOBとしての視点も踏まえて語っってくれた。
「気持ちのムラがないというか、人ってちょっと疲れていたり眠かったり、パワフルな日もあれば、なんか集中できていない日とか色々あると思うんですけど、それがあまりなさそう。本当に一定のリズムで“いつもの前田悠伍”を続けている感じですね」
高校時代の実績や、ドラフト1位での入団によって、行動ひとつをとっても注目が集まる。まだ18歳。色んな感情を抱きそうなものだが、前田悠の気持ちにはムラがないという。初登板は雨天での試合。試合後に反省と収穫を語った前田悠の言葉からは、どんな条件であっても、普段と変わらないパフォーマンスをしないといけない、という気概が伝わってきた。こういった部分も重田広報の言う「いつもの前田悠伍」だ。
自分だけの空間を生み出せる力もプロとして大事な要素になる。重田広報が続ける。「自分の感覚を大事にしている人間だなっていうのはめちゃくちゃ思います。なにかに左右されずに、自分がしたいっていう空間を自分で選択できるような人だなと思うので。あいつなりに考えて、あいつなりの感覚の中で生きてるのは、この世界ではすごくいいこと。そこがうまい感じはしますね」。練習中や寮生活の中からも、こうした雰囲気を感じることができる。
技術面においても「体が柔らかいかっていったら別にそういうわけでもないと思うんですけど、すごく柔らかく見える。そこが他の人よりも長けて見えます。あと、キャッチボールに関しては見た目とは全然違います。グンッてくる感じがあるので。野球の面はすごいなと思います」と、元プロの目線でもポテンシャルの高さを実感している。
重田広報が感じた「手元で伸びてくる真っすぐ」は、一流投手と比較しても遜色がない。「プロ全体で見てもそう。キャッチボールがいいピッチャーだなと思いました」。重田広報は現役時代、東浜巨投手と自主トレを行うなど、トッププレーヤーのボールも間近で見てきた。高卒の選手として、という目線ではなく、プロ野球界全体で見てもトップクラスの球。持っている能力の高さは、元プロの目から見ても「周りが言ってるのもすごく気持ちがわかる」と、羨ましさを感じるほどだ。
「(安易に)例えられるような人間にはなってほしくないなって思います。唯一無二というか、前田悠伍にしかできない成績を残したね、とか、記録はこうだよね、とかを話されるような選手になってほしいなって。期待はしますけど、別にそれを求めたりとかは全く思わないです」
43歳でも現役を続ける和田毅投手をはじめ、歴代のホークスにも数々の偉大な左腕がいる。そういった選手たちを超えて欲しいという願いを込めつつ、余計なプレッシャーを与えたくないという気遣いも重田広報にはある。前田悠のプロ野球人生はまだ始まったばかり。多くの人の期待を感じながらも「いつもの前田悠伍」を貫いてほしい。
(飯田航平 / Kohei Iida)