3月に右足を痛めて離脱も「回復状態もいいですし、怪我の痛みもないです」
2人の間で成り立つ、尊いリスペクトだった。ソフトバンクのダーウィンゾン・ヘルナンデス投手は現在、リハビリ組での調整が続く。3月20日に球団から「右半腱様筋筋損傷」と診断されたことが発表された。それでも、「調子はいいです。回復状態もいいですし、怪我の痛みもないです」と順調に復帰へのステップを踏んでいる。来日2年目となるベネズエラ出身の左腕が語ったのは、絶対的守護神として君臨するロベルト・オスナ投手への尽きない感謝だった。
昨年7月にチームへ加入したが、シーズンでの登板はわずか1試合に終わった。ウエスタン・リーグでは10試合に登板して防御率2.70。10回を投げて18奪三振と、2軍監督だった小久保裕紀監督もその能力を高く評価し、今季の開幕1軍入りは内定している状況だった。3月の右足の状態を「痛みはありましたけど、回復するように、チームのためにと思って投げていた。調子がいい日もあったんですけど、最後にチームから外れるという日はなかなか我慢ができなかったです」と苦しかった胸中を明かす。
昨年はほとんどの時間を2軍で過ごしたが、今年は2月の春季キャンプから多くの時間をオスナとともに過ごした。ヘルナンデスは米大リーグ時代は通算91試合に登板。MLB時代には最多セーブのタイトルを獲得し、通算314試合に登板したオスナとの出会いは、どんなものだったのか。
「オスナとの(出会い)はいろんな意味がある。1つは自分がやっていることに対してアドバイスをくれる。もう1つは『こうやった方がいいんだよ』と、強制するのではなくて、後押しをしてくれる。話している感じもそうですし、自分にとってもいい波長を感じています。彼は自分だけが良くなるんじゃなくて、チームメートみんなが良くなるように『こうしていったらいいんじゃないか』といつも話している」
オスナのスタンスは「聞かれたら答えますけど、自分から『こうじゃないの』っていうことはない」というもの。その上で、自分の懐に飛び込んでくる選手には全力で向き合うのが自分のやり方だ。オスナ本人が明かしていたのは、チームには一体感が必要だということ。プロとして“どうあるべきか”を、常に考える必要があるということだった。
「僕がどういう意図でアドバイスをしているのか。いい選手、いいチームを作るためには自分1人ではダメなんです。1人の選手の力ではなく、いろんな選手が力を合わせないといけない。そのために僕は、上手くなってもらいたいですし、僕も上手くなっていきたい。そこは裕樹(松本)たちにも聞いてくれたらわかると思います」
この言葉の真意はヘルナンデスもしっかりと受け取っている。「自分も小さい時から、野球をやる以上は自分1人がいいピッチングができても、みんなで勝つことを目標にしている。マツ(松本)に関してもいい人間ですし、オスナから勉強しようというのは感じるので、いい関係性は築けているんじゃないかなと思います」。尾形崇斗投手も含めて、オスナの考えを吸い込み、プロ野球選手としての立ち振る舞いからこだわって日々を過ごしている。ヘルナンデスもその1人だ。
2人が話す姿を見ていると「同じスペイン語圏だから」という言葉にとどまらないような、深い関係性を感じる。ヘルナンデスも「オスナとよく話をしているのは、自分たちは近い存在。だからこそチーム全体をサポートしていくために何ができるか。姿勢であったり、話し方であったり、全部を含めてチームとして勝っていこうという話はよくします」と、日頃から“フォア・ザ・チーム”とは何なのかを話し合っているようだ。食事や相手チームの研究、徹底したオスナの姿勢から、ヘルナンデスはどんなことを学んでいるのか。
「オスナは本当に小さいところから注意をかけている。小さいところからどうにかできないかということは考えていますね。自分にとっても、価値があることばかりですし、チーム全体にとってもそういう気づき、姿勢っていうのは価値のあるものなんじゃないかなと思います」
小久保監督は「勝利の女神は細部に宿る」と言う。オスナの徹底したプロ意識は、その言葉にも通ずる。ヘルナンデスも「自分がマウンドで投げている時は野球にだけ集中、フォーカスする。上手くなりたいし、戦っていくことを楽しむ気持ちでマウンドに上がっています」と熱い思いを常に抱いている。オスナはヘルナンデスよりも2歳年上。日本の価値観なら「兄貴」と表現したくなるような関係、年の差だが、ベネズエラで生まれ育ったヘルナンデスにとってオスナはどんな存在なのか。
「オスナは人として非常に尊敬できる人です。リスペクトする思いはベネズエラも変わらないです。今の状況でいうと、オスナは自分よりも長く野球をやっていて、多くの経験をしている。そこはいつもリスペクトしていないといけない。いい人、悪い人は関係なく、上の人をリスペクトするというのは自分も大切にしていますし、きっとみんなにとっても大切なことだと思います」
一緒にいる時間から、たくさんのことを学んだ。ヘルナンデスがプロとして大切にしたい姿勢は「一番最初に出てくるのは、尊敬するということです。あとは自分の時間を犠牲にしてやっていくことと、野球を愛することは絶対です」と語る。15歳まではサッカーをしていて、友達に誘われたことがきっかけとなり始めた野球。この気持ちならきっと、誰にも負けない。「野球がめちゃくちゃ好きです」。
(竹村岳 / Gaku Takemura)