絶対に支配下になるんだと、心に強く誓った日を思い出した。8月1日、日付まで克明に覚えている日だ。ソフトバンクは18日、宮崎の生目の杜運動公園で行っている春季キャンプで第4クール4日目を迎えた。紅組の「9番・左翼」で起用された仲田慶介外野手が、2安打を放ち「1日1日、結果を残していくだけなので、必死にやっています」と汗を拭った。
まずは3回無死に打席へ。板東湧梧投手と相対すると、2ボールから右翼フェンス直撃の二塁打で出塁した。「(カウントを)取りに来ると思ったので、積極的に強いスイングを仕掛けていこうと思いました。感触としてはすごく良かったです」。5回無死では、左腕の渡邊佑樹投手に対して右打席へ。17日の紅白戦でも2安打で、2日で4安打を記録した。「どちらの打席が得意、不得意っていうのはないので、どちらでも打てるぞというのはアピールしようと思っています」と、競争の中でまずは一歩、抜きん出てみせた。
17日に紅白戦を終えると、特打を行った。打撃投手を務めてくれたのが、小久保裕紀監督だった。「たまたまタイミングが合ったんだと思います」というが「成果がかなりありました」と感謝して、白球を打ち返していた。特別な感情を抱いたのは、色濃い悔しさとともに覚えている景色だったからだ。
「監督に投げてもらったことを思い出しました。あの時のことは今でも鮮明に覚えています。あの時に『活躍しないといけない』と強く思ったので、その気持ちがさらに蘇ったじゃないですけど、それを思い出しました」
昨年8月1日。育成選手にとっては、7月末で育成選手の登録期限が終わった翌日で「夢も希望もなくなった」とすら語っていた。真夏の筑後で、確かに存在した2人だけの時間。「もう絶対活躍してやろうと思いました。相当暑い中、1時間近く特打やったこと、いずれ活躍してネタにしてくれよって、小久保さんには言われました」と、当時も語っていた。
年は明け、今はA組でのキャンプとアピールできる舞台は自分の力で掴んでいる。17日の特打の後、小久保監督からは「去年のいい時はもっと、1回足を上げて止まっているタイミングがあったと言われました。自分でもタイミングが浅くなっている部分があったので、そこはすごく気づきになりました」と声をかけられた。内野手だった指揮官の球にも「めちゃくちゃコントロールも良くて、打ちやすいです」とニコッとはにかむ。
現在の支配下枠は62人で、空きは8枠。A組は育成選手では緒方理貢内野手、川村友斗外野手、中村亮太投手らがいて、この日からは古川侑利投手がA組に昇格した。枠が限られているだけに、競争においてもどうしても“横”を見てしまいそうだが、仲田は凛として、目の前のことに集中している。
「川村や緒方さんを見るというよりは、自分。他の人どうこうというより、周りを見るというよりは自分のプレーに集中しています。誰々に負けないというよりは、自分がやるべきことをしていきたいです」
紅白戦の2日間、結果を残せた要因を「準備」だと語る。「アーリーワークから自分の打撃の形を確認して、練習後にホテルに帰ってからもコンディションを整えること。フィジカルもですし、技術的にも『こういうイメージでいく』と決めた中でプレーできています」と、積み重ねてきたものが少しずつ輪郭づき、結果につながるようになってきた。明石健志2軍打撃コーチは育成の選手を「『意識を高くやれ』って言っても、どうやっていいのかがわからない」と表現したことがあったが、そういう意味でも仲田の技術とルーティンが確実に形になってきているのだろう。
「周りの選手は2桁ばかり。2軍だと3桁の子もいっぱいいますけど、A組だとほとんどが2桁なので、早く支配下になりたいです」
春季キャンプも第4クールを終えて、いよいよ対外試合も視野に入る段階になってきた。「1年目から2軍で見てもらっているので、1軍で、今度も小久保さんのもとでやりたいという思いはすごく強いです」。突き動かす思いは、2桁への渇望と、小久保監督への恩返しだけ。少しずつではあるが、確実に支配下へと近付いていく。