1月14日と15日が自主トレ公開…それよりも前に密着取材で長崎入り
「なんで和田さんの自主トレにあんなに人が集まるのかっていうと……」
数日間に渡って、長崎の鍛錬を見届けてきた。過去最大規模、他球団も含めて16人の選手が集結する中で“和田さん”が愛される理由が少しわかった気がした。選手たちの自主トレ公開を見届けてきた西田哲朗広報に“自主トレ通信”として、1月を振り返ってもらった。印象に残ったのはやっぱり、和田毅投手だ。
和田の自主トレ公開は、1月の14日と15日にわたって行われた。実は西田広報、それよりも前にテレビの密着取材があったため、数日前から長崎入り。和田が取材される様子を見守っていた。1月下旬にも別の密着取材で再び長崎へ。「これだけの選手と自主トレをすることがすごいこと。ましてや、ホークスでも8勝を挙げていましたから」。多くの選手が集まっていた影響もあり、例年に比べても“TEAM21”への注目度は高かったそうだ。
「なんで和田さんの自主トレにあんなに人が集まるのかって言うと……」。数日間、練習の様子も、取材を受ける姿も見てきた西田広報だから推察できる。なぜ16人もの選手が集まるほど、“和田さん”は愛されているのか――。
「細かいことは言わないんです。言うポイントが的確にポンって感じなんです。それも、体の使い方的にも的確で『ここが使えていないから』とか、使ってみたら『おぉ』みたいな感じで、体の全てを知っているような言い方をされるんです。(試合で)投げる時は『ああやって投げよう』とかは考えていないみたいなんですけどね」
メンバーの1人の田浦文丸投手は2023年の自主トレで、和田から「左足、折った方がいいんじゃない?」と声をかけられた。助言をもらった次の1球から、明らかに感覚が違ったという。今年の自主トレでも、リチャード内野手がポール間ダッシュをしていた時、疲れもあって、腰が後ろに反ったまま走っていた。和田は「その走り方だと腰が危ない」と優しい口調でメニューから外れてもらい、怪我の可能性を未然に防いだ。
自分も現役の選手でありながら、後輩にも目を配る。1から10まで教えることもできる中で、1つ1つの言葉が的確だから、後輩も道を見失わない。「大竹(耕太郎、阪神)もそうなんです。『こうじゃない?』って言われて、そこから掴んだと言っていました。去年は阪神の勝ち頭(12勝)で、あれだけ活躍したから今年は大きく見えましたよね」。各地に散っている選手の活躍には、必ず和田からの教えが生きている。
高校、大学とアマチュア時代から注目を集め、プロ入り後も1年目から活躍し続けた。日米通算163勝を挙げ注目度は当然高く、放つ言葉も1つ1つが深く、重い。選手をたくさんの人に知ってもらうのが仕事である広報という目線で、和田を見た時に、どんな選手なのか。
「(取材対応の)鏡みたいな選手じゃないですか? でも取材がしやすいと思われるんですけど、それはもちろんこっち側が完璧な準備をしないといけない。『これは受けてもいい』という判断を僕ら広報がしないといけない。和田さんも厳しくて、言う時は言うので。しっかりと調整して、段取りして和田さんと相談するのは絶対に必要です。マスコミ対応がいい人なんですけど、その分こっちは、より慎重に和田さんにはアプローチするようには心掛けています」
選手とメディアの間に入り、露出をコントロールする広報の仕事。その中でも和田は、メディアの意図まで理解して言葉を発してくれる“オトナ”な選手だ。だからこそ、和田の優しさや柔軟さに、広報が甘えてはいけないと西田広報は強調する。「それくらい僕らには責任がある。取材を受けてもらうのなら、中途半端には受けてもらえない」。この案件は受けるべきか、どうか。しっかりと考え、メディア側とも意見を擦り合わせた上で、和田のもとに持っていく。偉大だからこそ、丁寧さを忘れてはいけないと思わせてくれる存在だ。
多くのメディアが和田のもとを訪れ、密着した。そのメリットもあると、西田広報は言う。「和田さんが密着されている姿を見て、自分らもこうやって取材依頼が来た時にこれくらい対応できるのか、とか。そういう取材姿勢も学べる場所だと思います」。長崎までやってきたメディアの方々に、丁寧に応じる和田の姿を見るだけで、必ず後輩たちの勉強になる。和田の姿勢、言葉の1つ1つが後輩に伝わり、広報にとってもいい伝統になってほしいと西田広報も願っていた。
西田広報自身も、1つの自主トレ先でこれだけ滞在したことはなかった。当然、発見ばかりだ。シーズン中から、西田広報の管轄は1軍。接することがなかった選手にも「それぞれのすごさを感じました」と振り返る。高卒2年目左腕の大野稼頭央投手は「あんまり見たことなかったんですけど、ポテンシャル、運動能力は高かったです。ちょっと体を動かしただけでセンスを感じました」。和田の自主トレはランニングも体幹メニューもハード。投げる以外の姿も初めて見て、バネのような力強さを目にしてきた。
育成で唯一参加していたのが前田純投手。2023年はウエスタン・リーグで1試合登板した大卒2年目左腕だ。「普段は“ゆるキャラ”くらいフワッとした子ですけど、いざキャッチボールに入るとテンポもいいし、シャキシャキ投げる。投球スタイルは性格と真逆でした」と“ギャップ”に驚いた。前田純自身も、最初は緊張の日々だったと語っていたが、西田広報の目からも「数日間だけで彼の立ち振る舞いとか、成長しているなと感じました」と言う。短い時間で成長する若手を見られたことは、西田広報にとっても貴重な経験となった。
選手としての眼力も、人としての器も持っている和田だから、選手が集まってくる。「“和田塾”の子は、みんないい子でしたね」と締めくくるような西田広報の言葉に、和田が愛される理由の全てが詰まっていた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)