「やべえな、この人は」板東湧梧が胸に刻む“雄叫び”…間近で見た「超一流」和田毅の姿

ソフトバンク・板東湧梧【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・板東湧梧【写真:荒川祐史】

秋季キャンプではドライブラインでの取り組み、1月に決まっている自主トレの予定とは

 発見が続き、感覚と数値をすり合わせるような秋となった。ソフトバンクは17日に秋季キャンプを打ち上げた。投手は筑後、野手は宮崎という球団初の縦割りキャンプを実施。米国からは「ドライブライン・ベースボール」のスタッフを招くなど、科学的なアプローチで選手の技術向上を図った。板東湧梧投手にとって、どんな期間となったのか。自主トレをともにする先輩でもある和田毅投手を「さらに尊敬する」という言葉の真意に迫った。

 ドライブラインでは、まずは体に機器を装着してあらゆる角度から数値化。自分のフォーム、体の特徴を踏まえて長所も短所も発見された。板東も過去に計測した経験があったといい「目新しいものはないんですけど、自分がやっていることの再確認ができたのはよかったです」と充実の表情で語る。「ドライブラインの形があるんですけど、自分の今のフォームや課題に対して『このドリルが合う』『このドリルではどんな意識をするべき』って教えてもらえる」と、方向性が照らされるようなフィードバックを受けた。

 今季は30試合に登板して5勝4敗、防御率3.04。自己最多の83イニングを投げるなど経験を積んだが、最大の目標に掲げていた開幕ローテーションから漏れるなど、悔しさの方が多いシーズンとなった。自分が感じていた課題と、ドライブラインからのフィードバックを照らし合わせても「アプローチは独特でしたけど、自分がやっていることと同じだった」と、ある程度似ていたことから、方向性を見失わずに済む。今オフは体幹の強化と、股関節にフォーカスして取り組んでいく。

板東は1月の自主トレでは2年連続で“和田塾”で自身の課題と向き合う【写真:竹村岳】
板東は1月の自主トレでは2年連続で“和田塾”で自身の課題と向き合う【写真:竹村岳】

 昨オフは年間を通した体力をつけるためにウエートトレーニングに励み、フィジカルにおいて明確なスケールアップを果たした。しかし「去年は目に見えてわかるような変化がしたかった。それがパフォーマンスにうまく繋がらなかったというのが、1年が終わって感じる一番の思いです」と振り返る。今春のキャンプでも腰を痛めるなど、体の“生かし方”に最初は苦労した。シーズンを通して大きな怪我をすることこそなかったものの、成績に繋げられなかったのは反省しかない。今オフでは優先度を考え直して「体の使い方」に焦点を当てるつもりだ。

「(昨オフの取り組みを振り返ると)ちゃんと細かいところまで考えられていなかった。スケールアップっていうのは今シーズンの課題でもあるんですけど、プラスして自分の体の機能的な使い方。それこそドライブラインで出た課題とも一致するもの。モビリティであったり、そこをもう1度、基本に立ち返ってしないといけないな、と。そこが一番です」

「体を作っても、機能的な体の使い方ができなかったらムラが激しくなるんです。僕はその前(2022年)のシーズンで終盤に手応えを感じていたんですけど、これを1年間を通してやる自信がまだなかったから不安で、とにかく体を強くした。逆に体は強くなったけど、パフォーマンスに生きなかった。どっちも大事なんですけど、まずは機能的な体の使い方ありきだと(気がついた)。それを損なわないことが前提で体がついてこないといけないです」

 1月の自主トレでは2年連続で和田にお願いして、快諾をしてもらった。自分の課題には体幹と股関節の2点を挙げて「僕のこの1年間の姿を、一緒にプレーして見てもらった。根本的に僕は体幹と股関節の部分が固い。自主トレの時から言われてもいて、トレーニングもしていたんですけど、そこが自分の掴めなかったところ」と言う。今課題と感じている点は、和田からも言われ続けていたことでもあった。

「キャンプの1発目に(腰を)怪我したのも体幹が抜けていたからで、股関節にも課題がありましたし、いろんな原因があった。基本はそこなんです」と、全力で2023年を戦った今だから、理解できるアドバイスばかり。自分が進みたい、進むべき方向を何度考えても、その先に“和田さん”がいる。機能的な体の使い方という自分なりの“基本”にフォーカスするからこそ、もう1度、和田のもとで1月を過ごしたかった。

 和田の自主トレといえば、体幹をメインとした体作りや、連日の走り込み、夜に自主トレメンバー全員でテーブルを囲う“食トレ”など、昨オフの板東も「ナメていました」と音をあげるほどの内容だ。来年2月に43歳を迎える和田。今季も8勝を挙げるなどチームの柱として戦うことができたのも、圧倒的な練習量で鍛え上げた肉体と、それを使いこなす知識があるからだ。板東も「長く野球をすると考えた時に、そこをマスターしていないといけないと思います。小手先のことをやっても続かない。本当に基本の“基”です」と強調する。

 板東にとって忘れられない姿がある。10月16日のロッテ戦(ZOZOマリン)。1勝1敗で迎えたクライマックスシリーズの第3戦で、先発したのが和田だった。ピンチをしのぐと、拳を握って雄叫びをあげる。結果的に5回無失点でバトンを繋いだ。シーズンの成績はもちろん、絶対に負けられない一戦で心技体が揃った姿には、結果以上の凄みがあった。ベンチ外だった板東は「和田さんが投げていた時は治療もあって、食堂とかで見ていた記憶があります」と振り返る。プロとしての全てが詰まった和田の姿から、何を思ったのか。

「やっぱり、みんなで見ていても『すげえな』ってなりました。やべえな、この人は。年間を通してすごいけど、ここぞという時にやるのが超一流だと間近で見て感じました。尊敬していますけど、さらに尊敬しました。どんどんすごくなると言ったらおこがましいですけど……。ただただすごいです」

ピンチを脱し雄叫びをあげたソフトバンク・和田毅【写真:荒川祐史】
ピンチを脱し雄叫びをあげたソフトバンク・和田毅【写真:荒川祐史】

 結果的に延長10回に4点を奪われてサヨナラ負け。2023年の戦いが終わったが、もし勝っていたら――。京セラドームでのオリックスとの初戦、先発していたのは板東だった。自分が先発予定だった“直前”の試合で見せられた大先輩の闘志に、当然奮い立つしかない。自分の順番は回ってこなかったが「特に今年はすごかったなって思います」と、和田の姿は今でも心に刻まれている。体と技術の礎を築いて、少しでも和田の背中に近づくようなオフにする。

(竹村岳 / Gaku Takemura)