「奥村さんのように気持ちのこもったピッチングをできるように意識していた」
日本一を決めた瞬間も、マウンド上には背番号「39」がいた。7日にひなたサンマリンスタジアムで行われた巨人とのファーム日本選手権を6-5で制し、4年ぶりに日本一となったソフトバンクの2軍。逆転して迎えた9回を締めたのは、守護神の尾形崇斗投手だった。小久保裕紀2軍監督に“今季のMVP”と評価された右腕は、9月29日のウエスタン・リーグ優勝に続いて胴上げ投手になった。
「1年の間でリーグ優勝と日本一の最後のマウンドに立つことができてすごい幸せというか、素晴らしい経験をさせてもらったと思っています。緊張はしました。すごくいい昂りというか、込み上げてくるものもあったので、この1年みんなでこうやって戦ってきたっていうものもあったので、それをマウンドでしっかり表現できたのでよかったです」
一時は4点のビハインドとなったが、じわじわと追い上げると、8回にリチャード内野手の特大ソロや渡邉陸捕手の犠飛などで3点を奪って逆転に成功した。最終回はもちろん今季のウエスタン最多セーブに輝いた尾形に託された。三振、中飛、中飛。自己最速を更新する157キロ。きっちりと3人で切って取り、危なげなく試合を締めくくった。
この日、ベンチには5日に戦力外通告を受けた奥村政稔投手の姿があった。小久保裕紀2軍監督の計らいによって、ファームの大一番に駆けつけた。尾形にとってもお世話になった先輩。「奥村さんの分もしっかり、マウンドで奥村さんのように気持ちのこもったピッチングをできるように意識していた」。人一倍、気合いが入っていた。
この試合のため、宮崎へと出発した6日早朝。集合場所だった博多駅にスーツ姿の奥村がいた。仲間やスタッフへの挨拶のために訪れた奥村から、尾形も激励の言葉を受け取った。「頑張ってこいよ」。慕ってきた先輩からの言葉は胸に響いた。
奥村の戦力外を知った尾形は、宮崎へと持っていくスーツケースの中に、奥村の背番号「126」のユニホームを忍ばせていた。ファーム日本選手権の当日、これを取り出すと、球場まで持っていき、ブルペン横の通路に飾った。そして、マウンドへ向かう直前。ブルペンを出ると、尾形は奥村のユニホームに声をかけたという。
「いってきます」
その先で待っていたのは奥村をはじめ、1年間、ともに戦ってきた仲間たちだった。「もうやってやるぞっていう感じで一切後ろ向きな気持ちはなかった。プラス、仲間たちが送り出してくれたのですごい力になりました」。奥村をはじめ、仲間たちから鼓舞する拍手と言葉。それが大きな力となって、マウンド上で発揮された。
尾形は小久保2軍監督を「尊敬している監督」と言う。そんな指揮官からMVPに挙げられ「そういう方からMVPと言っていただけて、試合後にも『よく頑張った』って言ってもらえたので素直に嬉しいです」。恩師と先輩に捧ぐ日本一。2軍ではあるものの、尾形にとっては大きな経験になったはずだ。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)