緊急登板で投球練習はたった「5、6球」 又吉克樹が舞台裏で見せていたプロの真髄

ソフトバンク・又吉克樹【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・又吉克樹【写真:荒川祐史】

スクランブル登板を完遂させた試合前から始まる登板への準備

■ソフトバンク 6ー0 楽天(2日・PayPayドーム)

 ソフトバンクは2日、本拠地PayPayドームで行われた楽天戦に6-0で勝ち、再び単独2位に立った。序盤に3点を先行したが、先発の大関友久投手が6回無死一塁で左脇腹の違和感を訴えて緊急降板。この緊急事態で見事な火消しを見せたのが、又吉克樹投手だった。

 出番は突然だった。3点リードで迎えた6回。大関が先頭の小深田に中前安打を浴びると、斉藤和巳投手コーチとトレーナーがマウンドに駆け寄った。左脇腹に異変が生じたため、治療のためにベンチへ下がると、そのまま降板。2番手として又吉にこの場面が託された。

 スクランブル登板にも関わらず、右腕は完璧なリリーフを見せた。代打の伊藤裕をインコースへのシュートで詰まらせて二ゴロ併殺打。続く島内もチェンジアップで二ゴロに仕留めて、わずか7球で窮地を切り抜け「まさかゲッツーを取れると思ってなかったので、野手と甲斐の大胆なリードに感謝したいと思いますし、いい結果になってよかった」と振り返った。

 大関の緊急降板によって巡ってきた急遽のマウンド。果たして準備はどれだけできていたのか。ベンチ裏ではどんな動きがあったのか。又吉がその舞台裏を明かした。

「いつも4回裏にキャッチボールをしているので、その流れでいけたので、そこまでバタバタって感じではなかったです。ブルペンでのピッチングは5、6球投げたくらい」

 普段通りに4回にキャッチボールで軽く肩を温めていたという又吉。それでもブルペンでピッチングを始めたのは、大関が安打を浴び、斉藤和コーチがマウンドへと向かったタイミングだった。そこからピッチングを始めて、ボールを投じたのはわずか5、6球。そのままマウンドに上がって試合に入って行った。

 これぞプロのリリーバーの経験と技だ。「それなりに引き出しはあるので、やっちゃいけないことだけを確認して、中に入らないことだけを意識してブルペンで作った」。この場面で投手としてやってはいけないのは、真ん中にボールが入って長打や一発を浴びること。そこを意識してわずか5、6球の間に登板の準備を整えた。

 ごくわずかな球数で肩を作ることができるのは、試合を迎えるまでの準備を大切にするからだ。登板の準備は試合前の練習から始まる。そこでのキャッチボールで身体の状態を確認。「真ん中に投げようとした時にどっちにズレるのか、とかをキャッチボールで確認できれば、座った時にそれを意識して作り始められる」。キャッチボールの段階で微調整は終え、ブルペンでの投球練習を行うときにはもう準備はほぼ整っている段階にしてある。

 投げる大切さは中日時代の先輩達から学んだ。プロ入りした当初はキャッチボールも「なんとなく投げていた」という。助言を送ってくれたのは歴代最多セーブを誇る岩瀬仁紀氏をはじめ、浅尾拓也氏、山井大介氏(共に現中日投手コーチ)ら。「そういうことをしていると自分が損するよ」。それからキャッチボールの重要性を意識し出し、数年経ってその言葉の意味がわかるようになった。

 苦い記憶がある。9月19日に楽天モバイルパークで行われた楽天戦。1点リードの7回にマウンドに上がった又吉は2つの四球でピンチを招き、村林に痛恨の逆転2点適時打を浴びた。「仙台でやらかして、チームにすごく痛い1敗をさせてしまった。ただ、あれを取り返そうと考えると沼にハマる。あれよりも悪いことをしないように常に準備しながら1日を過ごしているから今日のようなことも起きるのかなと思う」。悔しさを胸に秘めつつ、躍起になることなく、足元も見つめて準備に勤しんでいる。

 去年は怪我で勝負の終盤戦に関われなかった。ちょうど1年前の10月2日、最終戦でのV逸の瞬間も、チームと行動を共にしていながら、ベンチの外で迎えた。「投げることもなく、あんなのいないのと一緒ですよね。その悔しさは1年間持ってきましたし、優勝はないですけど、CS、日本シリーズがあるので、そこに絶対に出るんだって気持ちで明日もマウンドに上がりたいなと思います」。どんな場面での登板も厭わない“困った時の又吉”。負けられない試合で、その存在が頼もしい。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)