4球目から4球連続でストレートを続けたあとに選んだフォーク
息詰まる大激戦を制した。24日に敵地・ZOZOマリンスタジアムで行われたロッテ戦。ソフトバンクは初回に5点を先制しながらも猛反撃にあい、7-6の1点差で辛くも勝利した。8回に迎えた2死満塁の絶体絶命のピンチを切り抜けたのは松本裕樹投手の投じた136キロのフォークだった。
初回に柳田悠岐外野手、今宮健太内野手、三森大貴内野手の適時打で一気に5点を奪ったホークス。楽勝ムードかと思いきや、先発の石川柊太投手がピリッとせずにジワジワと追い上げられた。3点リードで中盤まで来たが、6回に大津亮介投手が、7回には藤井皓哉投手が1点ずつを失い、ついに1点差まで詰め寄られた。
冷や汗をかいたのは8回だった。この回、マウンドに上がった松本裕は荻野を捕邪飛、友杉を遊ゴロに打ち取って、ポンポンと2つのアウトを奪った。だが、ポランコ、石川慎に連打を浴び、佐藤都には四球。塁が埋まった状況で、代打の安田を打席に迎えた。
初球は153キロの真っ直ぐが外れてボール。2球目は149キロで空振りを奪い、3球目のフォークはボールとなり、2ボール1ストライクに。ここから松本裕は4球連続でストレートを投じて、全てファウルにさせた。そして、2ボール2ストライクからの8球目は136キロのフォーク。安田のバットに空を切らせてピンチを脱した。
塁が埋まり、四球でもバッテリーミスでも同点に追いつかれる大ピンチ。この場面で松本裕と甲斐のバッテリーはどう安田を攻め、最後にフォークを選び、低めに投げ切ることができたのだろうか。
4球目から4球連続でストレートを続け、安田はこれを捉えきれずに全てファウルにした。甲斐は「マツの球と、っていうところはあります。押すところは押すということができると思っていました。変に中途半端になるよりはしっかりと腹を括ってやれればと思っていました」という。松本裕のストレートであれば、十分に勝負できる。下手に変化球に頼るよりも、最大の武器である真っ直ぐを続けた。
カウントは2ボール2ストライク。1球でもボールになればフルカウントになり、苦しくなる。ただでさえフォークは見逃されるとボールになりやすい。しかも3球目にはフォークを見逃されてボールになっていた。ただ、安田も徐々に真っ直ぐに合わせに来ていた。4球、ストレートを続けたあと、バッテリーは勇気を振り絞ってフォークを選んだ。
「勇気はもちろんいるところですけど、どの選択肢でも勇気は持たないといけない場面ではある。僕も勇気を持ってサインを出さないといけないし、覚悟を決めてやらないといけない」。甲斐はこう振り返る。甘くなるリスク、外れるリスク、そしてワンバウンドになるリスクは付きまとう。勇気を持ってサインを出した。
松本裕も同様だ。ワンバウンドになりバッテリーミスに繋がりやすいフォークは、投手にとって勇気のいるボールだ。場面は満塁、しかもボールとなればフルカウントになる。“怖さ”があってもおかしくない中で腕を振った。
「そこ(状況とかカウントとか)は考えていなかったですね、全然。ワンバウンドとかは拓也さんを信頼してもともと投げているので、その辺りは考えていないですし。とにかく空振りを取るイメージだけを持って投げました」
とにかく目の前の打者に向かった。絶体絶命のピンチにも過度に意識することなく、マスクを被る甲斐を信じてボールを投げた。魂のこもった1球に安田のバットは空を切った。「マツがしっかり投げてくれたと思います」。甲斐もただ、しっかりと投げ切った松本を称えた。
野球は勝負の世界。当然、勝ちもあれば、負けもある。投手と打者ならば、抑えることもあれば、打たれることもある。どうやっても完璧に抑えることはできないし、全て打つこともできない。結果は神のみぞ知る勝負の中で、選手は勇気を振り絞って最善を尽くす。そんな魂を感じる打席、1球だった。
激戦を制してホークスはロッテと並び、2位タイに浮上した。残り9試合。当然、ここまで戦ってきた疲労は溜まり、リリーフ陣も、そして野手陣もギリギリのところで必死に戦っている。薄氷を踏む思いで掴んだ1勝。クライマックスシリーズ進出を争う最終盤で大きな白星になった。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)