鷹フルがお届けする主力4選手による月イチ連載、甲斐拓也選手の「8月前編」です。今回のテーマは7月に喫した悪夢の12連敗。その内情と、11連敗後に流した涙の理由を甲斐選手自身が明かしました。「8月後編」は12日(土)に掲載予定です。
オールスターが終わり、後半戦に入っても、なかなか波に乗り切れないでいる。6日の日本ハム戦(エスコンフィールド)を終えて、ホークスは48勝45敗2分けの3位。首位のオリックスに8.5ゲーム差と大きく水を開けられ、残り試合も48まで減ってきた。正捕手としてマスクを被る甲斐も「苦しい状況というか、なかなか乗り切れない部分がある。なかなか結果がついてきてないっていうのは苦しいです」と心中を吐露する。
7月7日の楽天戦(楽天モバイル)に敗れてから、悪夢の12連敗を喫した。味わったことのない長期の連敗。接戦に持ち込んでも、なかなか勝ち切れない試合が続いた。ファンももどかしい思いを抱えていたはずだが、戦っている選手たちはそれ以上にもどかしかった。
「連敗中でも、選手みんなで気持ちを奮い立たせて戦っていました。ただ、勝っているときは1つのプレーでズルズルいくことっていうのはないんですけど、負けが続いているときはプレー1つで一気にチームが落ちてしまう。そういう雰囲気っていうのはやっぱ感じました」
甲斐自身も正捕手として責任を感じていた。連敗中の心中を「苦しいですよ……しんどいですよ……キツイですよ……」とこぼす。0点とはいかないまでも、相手の得点を2点や3点に抑えたとしても、打線がなかなかビハインドを跳ね返すことができなかった。「投手はすごく頑張ってくれていたと思います」と称えつつ「僕はやっぱり打者としての部分もありますので」と、援護できなかった不甲斐なさを悔いた。
甲斐が悔し涙を流した試合がある。選手同士で決起集会を行い、決意を新たにして迎えた7月24日のロッテ戦(ZOZOマリン)だ。54年ぶりの11連敗で迎えたこの試合は、初回に佐々木朗から奪った1点のリードを、石川柊太投手、松本裕樹投手のリレーで8回まで守った。残すは9回のみ。守護神のロベルト・オスナ投手で逃げ切りを図った最終回に、悲劇が待ち受けていた。
先頭のポランコに右中間への二塁打を浴びて走者を背負った。それでも、山口を遊ゴロに打ち取って1死とすると、岡の投ゴロで飛び出した三走の代走・小川をタッチアウトにして2死。連敗脱出まであとアウト1つにまで近づいた。ここで打席に迎えたのは代打の角中。まさかの結末は、1ストライクからの2球目で起きた。
オスナが投じた真っ直ぐは、甲斐が構えていた外角低めではなく、内角高めへの逆球になった。角中がバットを振り抜くと、打球は一直線に右翼スタンドへ。膝に手をつき、崩れ落ちるオスナ。甲斐も呆然とし、その場からしばらく動けなかった。
「まさか……」
歓喜に沸くロッテナインを横目に、重い足取りでベンチへ引き揚げる。「時間を巻き戻したいって、心底思いました」。打たれたオスナが近づいてきて、絞り出すように、甲斐にこう声をかけた。「甲斐さん、すいません」。頭をクシャクシャとされると、涙がこぼれ出てきた。
「とにかく悔しかったです。悔しくて涙が出ました。なんでオスナにこんな言葉を言わせてるんやって悔しくて、申し訳なくて……。オスナの優しさであり、僕をかばおうとしてくれたと思うんですけど、それを言わせてしまったというのが、キャッチャーとして悔しくなりました。オスナに申し訳ないなっていう思いがものすごく出てきて、それでちょっと我慢できなくなってしまって……」
要求とは異なる逆球だったとはいえ、責任を痛感している。「違うやり方があったかもしれないですし、違う選択肢も多々あると思います。言葉1つ、ジェスチャー1つ、構え方1つで変わっていたかもしれない。投げミスがあったとしても、それはもうこっちとしても何かできる方法があったんじゃないかって」。あとアウト1つのところで連敗を止められなかったこと、オスナに謝らせてしまったこと……。自分自身が不甲斐なかった。
翌25日のオリックス戦(京セラドーム)で長く続いた連敗は止まった。有原航平投手と甲斐のバッテリーによる見事な完封勝利だった。ただ、その後もなかなか白星は続かない。「負けていることに関して責任を感じています。個人の状態よりもチームが大事。そこでなかなか結果がついてきてないっていうのは苦しいです」。忸怩たる想いを抱えながら、グラウンドで戦いを続けている。