ソフトバンクが悪夢の12連敗を喫した。24日にZOZOマリンスタジアムで行われたロッテ戦。初回に1点を先制すると、このリードを先発の石川柊太投手、2番手の松本裕樹投手が懸命に守ったが、9回に守護神のロベルト・オスナ投手が逆転サヨナラ2ランを被弾。連敗脱出まであとアウト1つまで迫りながら、まさかの結末が待っていた。
初回に幸先良く先行した。先頭の牧原大成内野手が三塁線を破る安打で出塁すると、盗塁を決めて二塁へ。近藤、柳田は空振り三振に倒れたものの、2試合連続で4番で起用された中村晃外野手が右前適時打を放って、佐々木朗から先制点を奪った。
先発の石川は初回、2回と立て続けにピンチを招いたが、なんとか無失点で凌ぐと、尻上がりに調子を上げて7回まで4安打無失点。1点リードで9回まで持ち込み、守護神のオスナがマウンドへ。2死一塁と、勝利まであとアウト1つとしたが、甲斐拓也捕手が外角に構えた代打・角中への2球目がインコースに入り、痛恨の一打に。まさかの逆転サヨナラ2ランに藤本博史監督も、選手も呆然となった。
勝利への渇望が詰まった試合だった。試合前の円陣で珍しい光景が広がった。栗原陵矢外野手の呼びかけで、ベンチ裏から飛び出してきたのは甲斐野央投手だった。普段、試合前の声出しは野手だけで行われ、投手が参加することはない。まさに異例のことだった。
甲斐野は「なんでこんな状況でふざけてるんや、とかアンチも来ますよ。そんなん気にしないです。だって勝ちたいもん。勝ちたいから一発ギャグします」と渾身の一発芸で、野手陣たちの爆笑をかっさらった。さらに、甲斐野の「一体感を出したかった」という呼びかけで選手全員が肩を組んで輪を作り、試合に向けて気持ちを高めた。
なぜ甲斐野が“声出し”をすることになったのか。その真相はこうだ。
54年ぶりとなる11連敗を喫した23日の試合後。千葉市内の飲食店にほとんどの選手が集まった。中村晃が提案して開催された決起集会だった。選手がそれぞれに思うことを意見し合い、連敗脱出のために改めて一丸となった。その会の中で挙がったのが、甲斐野による“声出し”だったという。
円陣の声出しは基本、日替わりで指名され、連勝すれば、その選手が負けるまで継続して行う。連敗の間は毎日別の選手が行っており、流れを変えるために急遽、明るいキャラクターで投手陣だけでなく、野手陣からも愛される甲斐野が指名されたという。
甲斐野自身は前夜の決起集会の時点では「冗談だと思っていたんですけど……」というが、冗談ではなかった。24日の朝に改めて野手陣から“声出し役”に指名された。ただ、そこは甲斐野という男。「今朝、ホンマに『甲斐野いこう!』って言われて。『オレ?』って思いましたけど、やるからには全力でやるしかないな、と」。
チームは11連敗中。ただ、決して選手たちは下を向いているわけではない。甲斐野も「雰囲気は悪くないんですけど」と言いつつ「ちょっとでも自分に変えられることがあればいいかな、と。僕は僕の仕事をしなきゃいけないので、その前にちょっとだけ」。役割を意気に感じて、テンション高く、野手の輪に飛び込んでいった。
選手たちはこの日も必死に戦った。初回に佐々木朗から1点をもぎ取り、石川が7回までリードを守った。打線は追加点をあげることはできなかったものの、8回を松本裕がゼロに抑え、リードしたまま守護神のオスナにバトンを渡した。結果的には悪夢のサヨナラ負けとなったが、連敗ストップも目前に迫っていた。
敵地に観戦に訪れた王貞治球団会長が「これが勝負」と語ったように、最後は紙一重だった。連敗は12に伸び、トンネルを抜け出せなかった。ただ明けない夜はない。前を向き、懸命に戦う選手たちが報われる日は必ず来る。