“打つ球じゃないから動かない”…長谷川勇也コーチが語る川島慶三 異なる2人の代打の心得

ソフトバンク・長谷川勇也コーチ【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・長谷川勇也コーチ【写真:藤浦一都】

「慶三さんは慶三さんの読みを大事にしている。そこには自分の信念がある」

 ホークスを支えた2人の代打にはどんな違いがあったのか。長谷川勇也打撃コーチと、現在は楽天に所属する川島慶三2軍打撃コーチ。持ち味も特徴も異なる2人は、勝負師として何度もチームを救ってきた。長谷川コーチは川島コーチと比較して「打席内のアプローチに関する共通点はあまりなかったかもしれません」という。自らの視点でお互いのスタイルを語った。

 長谷川コーチは代打を「ジャンケン」だと表現する。たった1回のチャンスで結果を残そうと思えば、全ての球を追いかけて打つことは確率が限りなく低くなる。球種なら球種、打ちたい方向なら方向と、自分の中で決めて、しっかりと頭を整理して打席に入ることが大切だと強調していた。「それくらい割り切っていかないと代打は打てない」というのだから、いかに覚悟が重要な仕事なのかが伝わってくる。

 この話を聞いて思い出したのが、川島コーチがホークス時代に語っていた代打での心得。長谷川コーチと比べ「駆け引きは僕の方が長谷川よりもやっている。タイプが違うので、技術がない分、駆け引きで勝負していた。右(打ち)と左(打ち)で切磋琢磨してやってきたつもり」と話していた。経験で培った“読み”を生かして、代打として打席に向かっていたと語る。

 長谷川コーチの視点から見るとどうなのだろうか。現役時代に通算1108安打を放ち「打撃一閃」が代名詞になるほどの集中力と技術が何よりの武器だった。懐かしそうな表情で、川島コーチにリスペクトを込めながら、こう話す。

「慶三さんはどちらかというと、性格的に、それ(駆け引き)を楽しんでいたんじゃないかな。読みが合う、合わないっていうのを。僕は読みでは打てなかった。読むのに1回(相手の意図を)当てないといけないし、読んだボールがきた時にもう1回(技術的に球に)当てないといけない。2回作業がいるのが面倒だったから、来た球を1回で仕留めるという中で僕はやっていました」

 まさに“読み”の川島慶三と“技術”の長谷川勇也。相反するような互いのスタイルで、持ち味も弱点も違うだけに「多分(お互いに)できないと思います。ジャンルが違うから」と長谷川コーチは言う。「僕は配球を読んで打つことってあんまりなかった。真っ直ぐを待って、あとは反応で打つタイプ。打席内のアプローチに関する共通点はあまりなかったかもしれませんね」と続けた。

 代打とは、ほとんどが試合終盤の勝負どころでの起用になる。出番を待つ間、ベンチでの2人による“代打談義”は、意外にも「なかった」と振り返る。試合における自分自身のルーティンがあるからこそで「僕はやることが決まっていましたから。今日の試合はこうだから『こういう待ち方をしよう』っていうのもなかった」。自分の技術を信じ、貫く姿も長谷川コーチらしい。

 先発起用と代打でも、中身は異なる。先発投手をはじめ、数打席を使って結果を出す先発と、一発勝負の代打。「僕はどちらかといえばキャッチャーの心理を読むタイプ」と、数打席あれば読みを用いることもあったが「4打席ある方が逆に難しかったですね。読まなくていいところを読んじゃうから」とさえ言い切る。目の前の1球に集中する方が、もしかしたら“らしさ”が出ていたのかもしれない。

 長谷川コーチは当時、打席内で相手の投球に対して、タイミングすら取らず微動だにしない時があった。「多分誰もやらないと思います」と本人も苦笑いする珍しいアプローチ。そこにもこだわりが詰まっていた。

「考えて、待ちたくないボールが絶対にくる時があるんですよ。この打席の初球は絶対にチェンジアップとか、絶対にカーブとか。だいたい分かるんです。でも、それは僕の打つボールじゃないから。だから僕は完全停止とかをやっていた。微動だにせず、動かない。あの時は、打つボールじゃないから動きたくなくて。僕は変化球のタイミングの取り方がわからないので」

 はじめから変化球を待って打つことと、反応で打てるのはまた違うと言い切る。長谷川コーチが打ちたいのは、あくまで真っ直ぐだった。ストライクを取られれば、1球を“無駄”にしてしまうとさえ思えるアプローチも、長谷川コーチは意味を持たせていた。「だから、そういうふうに癖がないと無理ですよ」。大切なのは、プレースタイルで自分の生き方を表現するという信念だ。

「慶三さんは慶三さんの読みを大事にしている。そこには自分の信念があるわけじゃないですか。僕はそれでやるっていうスタイルだったので。信念とか、自分のスタイルとか、そういうのがないと、このプロ野球ではできないですよ。代打に限らず、スタメンでも。コーチに言われているから、そのままコーチの色に染まっていては無理です」

 最後に、川島コーチに感じていた信念はどんなものだったのかを聞いてみた。「いろんなチームを経ていますし、大怪我もしている。苦労もされているから、自分のスタイルが出来上がったんだと思いますよ」。現役のユニホームを脱ぎ、指導者となった2人。チームを、時代を背負える大打者を育てることで、今の自分の生き方を表現してほしい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)