日本球界で5年目のシーズンを迎えた。ソフトバンクのカーター・スチュワート・ジュニア投手が覚悟を宿す胸中を明かした。怪我で出遅れ、19日に行われたウエスタン・リーグの広島戦(タマスタ筑後)で今季初めて2軍戦に登板。5回を投げて2安打無失点の好投を見せた。小久保裕紀2軍監督も「俺が見た中で一番よかった」と絶賛する投球内容で、ようやく2023年がスタートした。
2018年の米ドラフトでブレーブスから1巡目(全体8位)で指名を受けたものの、入団には至らなかった。2019年の入団時にホークスと6年契約を結び、年俸総額は700万ドル(約9億7100万円)とされている。今季が5年目。単独取材に「体の状態はすごく良くて、ピッチングも上がってきている。長いイニングを試合で投げられるように頑張りたい」と心境を語る。
春季キャンプは筑後のリハビリ組で過ごした。キャンプインの1週間ほど前、米国での自主トレ中に「去年痛めた体幹周りのところに違和感、痛みを感じてしまった」とアクシデントに見舞われた。「もちろんすごく悔しかった。1軍の宮崎キャンプに行く予定だったけど、参加できなかった」。もどかしさを胸に2月を過ごしたが、4月中旬にリハビリ組を“卒業”。ようやく2軍戦のマウンドにたどり着いた。
メジャーリーグでドラ1指名を受けた選手のNPB入り。誰もが球界を代表するような投手になることを疑わず、前例のない挑戦に期待をしたはずだ。ただ、ここまでプロで未勝利。1軍登板でさえ、2021年の11試合のみにとどまっている。迎えた5年目はどのような位置付けなのか。自らのキャリアと現状について、こう語る。
「とにかく5年目になるので、今年は安定性ですね。波がなるべく激しくならないように。いい試合でも悪い試合でも、ある程度、まとまった状態を作っていきたい。(そのポイントの1つが)右股関節です」
「日本で5年間を過ごして、いろんな経験をしました。つらい思いもたくさんしましたけど、そういう経験がいつか絶対にいい意味でいい方向に繋がると思う。若い時にそういう経験ができてすごくよかったと思います」
課題は制球力にあることはしっかりと自覚している。技術面の取り組みについて「フォーム的には右股関節の使い方をうまくすること。それを良くすることで全体的にまとまってくる」と話す。昨季は1軍登板なし。日本球界における自分の課題も、通用する部分もある程度はわかってきたはずで「自分の持ち味は速くて強い真っ直ぐ。それをコントロールできるようになることが一番の成功の課題」と己を見つめる。
奮い立つような試合も目に焼き付けた。日本時間の3月22日、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝戦が米国で行われていた。頂上決戦の顔合わせは日本と米国。どちらの野球界もよく知るスチュワート自身はどんな心境で試合を見つめていたのか。
「その試合はずっと見ていました。今は日本にいますし、5年目ということで、どちらかというと日本を応援していました。日本を代表する選手と、アメリカを代表する選手の試合を見られて、いつか自分もその舞台に立てるようになりたいと思っていました」
その日は筑後での練習日。自分のメニューを消化すると、チームメートとともにテレビにかじりついた。大谷翔平投手とマイク・トラウト外野手との“ラストシーン”は「大谷さんと今世界一と言える打者のトラウトの対戦を、最後に見ることができてずっとワクワクしていました」と心を躍らせたという。
「今は体の状態がいいので、これからどんどんとアピールしていきたい」と語る表情は明るく、はっきりと前を向いていた。ポテンシャルは誰もが認める。今季こそ才能を開花させ、ホークスの力になりたい。最速159キロ右腕。今季が勝負だ。