「そういう割り切りも大事。僕はグーしか出さなかったです」
ソフトバンクは4月の戦いを終えて12勝10敗でパ・リーグ3位に位置している。開幕5連勝を飾りながら、18日から23日にかけて5連敗を喫するなど、特に敵地で苦戦が続く。なかなか波に乗れず、藤本博史監督をはじめとする首脳陣は「代打」の切り札的な存在がいないことも課題に掲げている。
そんなチーム状況にあって、長谷川勇也1軍打撃コーチが興味深い話をしてくれた。代打の現状について言及する中で、現役時代の経験を振り返り“代打はジャンケン”だと笑いながら明かした。一振りに懸ける“代打稼業”は「そんな簡単に打てるものじゃない」という。
現在、チームで代打として安打を放ったのはフレディ・ガルビス内野手(2本)と柳町達外野手(1本)だけ。上林誠知外野手、ウイリアンス・アストゥディーヨ内野手が3打数無安打など、チーム全体で計20打数3安打と“切り札”が不在の状況だ。現役時代は「打撃一閃」が代名詞で、現役の晩年は代打として活躍した長谷川コーチは現状をこう語る。
「開き直って打てる打者、状況を読んで打てる打者だったり、いろんな条件のある打者が心強いですけど、今を見る限りそういう打者はいない。とにかく思い切りだけ、いってくれたらと思います。その中で経験を積んで、状況に応じた中でどういう球を待つかとか、1打席の中でもしっかりと組み立てを持って入れる打者になっていくと思う」
選手を送り出す立場としても“切り札”と呼べる選手はいないと認めざるを得ない。しかし、そこは1度のチャンスで結果を出す難しさを誰よりも知る男。「まずは、そんなところまで求めていないので。行けと言われたら思い切り行って、あとは“知るかボケ”くらいで」と、開き直っていけばいいんだとも強調する。
現役時代に通算1108安打を放った長谷川コーチは、画面越しでも伝わってくる集中力と、1ミリの妥協すら許さない準備で代打でも結果を残してきた。「1打席しかないのでボールは選べない」。全てを追い求めても、結果は望めない。いつもクールで職人肌の長谷川コーチにとっては珍しいかもしれないが、ユニークな表現で代打を例える。
「(現役時代は)自分の打つべき球にひたすら集中することに懸けていたので。違うボールが来たら反応して打つ準備はしていましたけど。打席の中で『何打つ、何打つ……』じゃ、負けるので。ジャンケンだとしたら、最初からグーを絶対出すと決めて入るみたいな。相手がチョキを出してきたら勝ち。それくらい割り切っていかないと代打は打てない」
相手の狙いも、点差もイニングも、状況も全てを把握して“この球を打つ”とはっきり決めて打席に立つ。割り切りも開き直りも、代打にとっては必要な能力だ。「そういう割り切りも大事ですし、気持ちの面は大きいですよ。運では打てないので。僕はグーしか出さなかったです」と笑顔で話す。長谷川コーチだって、何度も凡退してきたからこそ辿り着いた1つの境地が“ジャンケン”だ。
(竹村岳 / Gaku Takemura)