「何人も見てきた」誰でもなり得るイップス ホークスの“レジェンド”が語る打撃投手

ソフトバンク・浜涯泰司打撃投手【写真:竹村岳】
ソフトバンク・浜涯泰司打撃投手【写真:竹村岳】

ソフトバンクの“レジェンド打撃投手”浜涯泰司さんが語る「イップス」とは

 よく耳にする「イップス」という言葉。心的要因などで思うようなパフォーマンスが発揮できなくなる心理的症状のことである。野球でいえば、主に「送球」「投球」につきまとう症状。浜涯泰司打撃投手は、イップスになり「ストライクが投げられなくなって、やめていった人を何人も見てきた」と言う。

「打撃投手ってやってみたらすごく難しい。もともとプロ野球選手で、ストライクなんていつでも投げられるでしょうって感覚もあると思うけど、実際はそんなことはない。今までは打たれないように投げていたのが、打たせないといけないし、それが仕事になっている。その難しさはぜひともわかってほしいです」

 打撃投手は打たせることが仕事であり、ストライクが投げられなければ当然、仕事にならない。浜涯打撃投手は、2000年から打撃投手となって今季が24年目を迎えた。「俺はなったことがない」と話すが、フリー打撃なのに打者に当ててしまったり、打撃ケージのはるか上に投げてしてしまう投手など、何度も目にしてきた。投げられないなら、やめるしかない。だから、その気持ちは痛いほど理解できる。

 原因は千差万別だ。「気持ちの問題だと思います。打たせないと、打たせないと、と気を使っておかしくなっていく。考えれば考えるほど難しくなっていくんだと思う」と浜涯打撃投手なりに分析する。

 ホークスの打撃投手陣には、プロを経験せずに、アマチュア球界から転身した打撃投手が4人いる。アマチュアあがりの方がイップスになる傾向があるいい「余計に気を使うじゃない。プロ野球選手だ……っていうのがあるし、この世界を全然知らない人が入ってくるから。その緊張感はあると思う」と分析する。「他の球団でも、アマチュアの人が入ってきて投げられなくなるってよく聞く」と明かした。

 投手なら一塁への牽制やバント処理での送球が苦手な選手もいる。外野手なら中継への“ショートスロー”が苦手な選手がいるなど、見ている側が思っている以上に誰にでもイップスになる可能性がある。「俺は現役の時にもなったことはないから、なんでなるんやろう……って思う」と、浜涯打撃投手ですら完全な共感はしてあげられない。なった人にしか、その気持ちはわからない。

 人が足りなくて、選手同士が打撃投手をし合ったり、コーチが投げることも珍しくない。しかし、打撃投手はストライクを投げることでお金をもらい、そこには人それぞれのプロ意識だって存在する。「仕事になったら余計に難しい。それでご飯を食べているわけだから。手伝いで投げるなら、みんな普通に投げられるよ」。責任感やプロ意識がつきまとうからこそ、その難しさをファンの方々にも理解してほしいと訴えていた。

「投げて自分で克服するしかない。教えようがないから、投げ方の問題でもないし。俺は気持ちの問題が一番だと思う」と語る浜涯打撃投手。ストライクを投げる。そこにはプロとしての技術と経験の全てが詰まっているのだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)