“勝利への執念”が滲んだ2つの四球 千賀滉大が投球で示した「チームが勝てばいい」

ソフトバンク・千賀滉大【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・千賀滉大【写真:藤浦一都】

6回の山川の打席では自らの意志で四球を選んだ

■ソフトバンク 5ー3 西武(CSファースト・8日・PayPayドーム)

 8日に本拠地PayPayドームで行われた西武とのCSファーストステージ第1戦に5-3で勝利したソフトバンク。オリックスが待ち受けるファイナルステージ進出に王手をかける勝利をもたらしたのは、エース千賀滉大投手の力投だった。8回を投げて4安打3失点。リードを守って8回まで投げ、チームを大きな白星に導いた。

 初回を3者凡退に打ち取ると「メカニクスが合っていたんで、自分でも多分大丈夫だと思ってました」と振り返るように、4回まで7つの三振を奪うノーヒットピッチング。5回に味方の守備の乱れもあって2点、6回には森にソロを浴びたものの、失点をそこまでで留めた。8回2死一、三塁のピンチも、栗山を空振り三振に切り、グラブを叩いて気持ちを露わにした。

「とにかくチームが勝てばいいというところに今日は重きを置いていたので、本当にそれが叶ってよかったなと思ってます」。試合後にこう振り返った千賀。常に「自分がやるべきこと」に意識をフォーカスさせ、熱くなりすぎない投球を心がける。それはCSという緊張感ある場でも変わらない。「気持ちはいい意味で試合に入ってなかった」と冷静だった。

 チームを勝たせるために、千賀の意志を感じたのが、山川に与えた2つの四球だ。森のソロで1点差に迫られ、西武の主砲・山川を迎えた場面だ。ボールが3球続いてスリーボールになると、バッテリーは勝負を避けて四球で歩かせた。4球目を投じる直前、千賀は自ら甲斐のサインに数度、首を振った。自らの意志で山川との勝負を避ける選択をした。

「最初からみんな分かっていると思いますし、あんだけバカバカとホームラン打つ人に1点差で勝負は……。もっと点差があって、とかだったら別ですけど」

 さらに8回には先頭の金子が内野安打で出塁し、2つの内野ゴロの間に三塁へ。2死三塁で再び山川を迎えた。ベンチの選択は申告敬遠。これに対しても千賀は「『だろうな』と思いながら、なんとも思ってなかったです」。一発が出れば、同点とされる場面。最も危険な打者との対戦を避けることは、当然の策として受け止めた。

 だからこそ、その後の打者だった栗山を全力で抑えにかかった。球数は100球をゆうに超えていたが、この日最速タイとなる159キロを連発。何度もプレートを外し、捕手の甲斐と考えを確認し合いながら、時間をかけて栗山と対峙した。「ベンチと選手の思いはゼロに抑えること。時間をかけてでもゼロで帰ろうと思っていた」。言葉通りに栗山を抑えてみせた。

 千賀が目指すのは、味方の得点などで一喜一憂せずに、自身がやるべきことをやるという意味での「試合に入り込まない」。エースの投球に“熱さ”が感じられないと一部で言われるのも、ここに理由があるのだろう。自分でコントロールできないことにメンタルを左右され、100%のパフォーマンスが発揮できなくなっては意味がないということだ。

 この日、山川に与えた2つの四球は、まさに勝利だけを追い求めていたことの証だった。3点は取られはしたものの、これぞエースと呼べる、千賀らしいピッチングだったのではないだろうか。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)