松田宣浩が仲間に託した思い 精神的支柱を外す決断を下した藤本監督に滲む覚悟

ソフトバンク・松田宣浩【写真:藤浦一都】
ソフトバンク・松田宣浩【写真:藤浦一都】

降格を告げられた松田は集まったチームメートに言葉をかけた

 8日に本拠地PayPayドームで行われた楽天戦に3-7で敗れ、2連敗となったソフトバンク。初回に柳田の復帰後初アーチで2点を先制したものの、先発のレイが4回に突如崩れて4点を失った。打線も2回以降はなかなかチャンスが作れず、8回の柳田の犠飛による1点止まり。わずか5安打に終わり、正念場となる11連戦を連敗中という状況で迎えることになった。

 敗戦とともにこの日、衝撃を与えたのは39歳のベテラン松田宣浩内野手の出場選手登録の抹消だった。チームリーダー、そしてムードメーカーとして不可欠な存在として牽引してきたものの、新型コロナウイルスの陽性判定から復帰した柳町達外野手と入れ替わる形で、藤本博史監督ら首脳陣はベテランの登録抹消を決断した。

 今季ここまで43試合に出場して打率.204。打撃の状態はなかなか上がらず、ここまで本塁打もゼロだ。開幕スタメンを掴んだものの、シーズンが進むにつれて出番は減少。9月に入ってからは3日の西武戦、7日の楽天戦の2試合に代打で出場したのみと、チーム編成上は厳しいポジションに立たされていた。

 それでもベンチでの存在感は抜群だった。持ち前の明るさはベンチで過ごす日々が多くなっても変わらず、チームを盛り上げた。柳田との掛け合いでベンチ内に笑いを巻き起こすだけでなく、プレッシャーのかかる若手にも積極的に声をかけ、良き相談相手にもなっていた。藤本監督も常々「絶対に欠かせない選手」と語り、精神的支柱として絶大な信頼を寄せていた。

 その松田を勝負の11連戦を前に、出場選手登録を外す決断を指揮官は下した。柳町の復帰に伴い、登録枠の都合上、誰か1人が抹消にならなければいけなかった。現状、松田の本職である三塁には周東佑京内野手、フレディ・ガルビス内野手がおり、川瀬晃内野手や牧原大成内野手、野村勇内野手もカバーできる。一塁にも中村晃外野手や三森大貴内野手、正木智也外野手らがおり、こちらも川瀬らはプレーが可能だ。

 16人という限られた野手の枠の中で、首脳陣が選手起用のシミュレーションをし、導き出された結論が松田の抹消だった。精神的支柱である松田に1枠を使うか否か。指揮官は「マッチもできるだけ引っ張りたかったんですけど、シミュレーションしたらしょうがないかなって言うところですね」と明かし「今日は野村勇とか声出てましたよ。マッチの代わりはできないけど、みんなでやろうということ」と語っていた。

 指揮官は松田に降格を告げる際、2、30分に渡って話し合いの場を持ち、状態を上げて欲しいという思いを伝えた。「マッチもこれで終わりじゃないですから。状態が上がったら9月下旬にも、代打とか、そういう形で来てもらう可能性もあるわけですから。本人もその気持ちでしっかりやってくるってこと言ってくれている」。最終盤での再昇格を目標に、39歳は2軍で調整していく。

 ファーム行きを告げられた松田は練習前に、集まったチームメートたちに言葉をかけたという。「俺はここを離れるけど、あとは頼んだぞ」。そのまま練習に参加。気落ちする様子なく、いつも通り、元気に汗を流していた。大ベテランの思いは確実に後輩達に伝わったはず。柳田は松田のバットを借りて先制の2ランを打ち、若手は松田の分も、と声を出した。

「みんなで頑張ろうということでやっているんでね。ベンチは声は出てましたよ」と語った指揮官。ムードメーカーである松田を外し、優勝争いの勝負どころに挑むことを決めた。3チームが横一線に並び、混迷を極めるパ・リーグ。争いから抜け出すための藤本監督の覚悟の表れと言えるだろう。

(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)