アウトを“諦めた”今宮健太は「パーフェクト」 首脳陣絶賛…1秒99に凝縮された思考

太田の打球を横っ飛びで止める今宮健太【撮影:栗木一考】
太田の打球を横っ飛びで止める今宮健太【撮影:栗木一考】

今季初連勝を導いた今宮のビッグプレー

 名手の“神髄”が詰まった「1秒99」――。ホークスが今季初の連勝を飾った8日のオリックス戦(京セラドーム)。勝利を呼び込むビッグプレーを披露したのが、今宮健太内野手だった。

 3点リードの3回2死二塁、太田が放った球足の速いゴロが二遊間を襲った。遊撃の今宮が横っ飛びでボールを押さえ、中堅に打球が抜けるのを防いだ。二塁走者の生還を許さず、リバン・モイネロ投手が後続を抑えて無失点にしのぎきった。

 記録は内野安打となり、アウトを奪えたわけではない。それでも奈良原浩ヘッドコーチは「あのプレーは本当に大きかった」と惜しみない賛辞を送った。太田がボールを捉えた瞬間から、今宮がグラブで打球に触れるまでの時間はわずか1秒99。この間に、脳裏を巡った思考を名手が語った。

直前のプレーにあった「ヒント」

「打球の速さとバッターの走力を考えると、ファーストは大方間に合わない。打球を追いながらそれを思って、あそこはボールを止めればいいかなと。あそこで飛び込んで、ボールを取って、一塁に投げたところで8割、いやほぼ10割セーフだったので。とにかく二遊間を抜かせなければいいと考えていましたね」

 もちろん野手はどの打球もアウトにすることを目指して守っている。一方で、それが難しければ、次善策を考える必要がある。今回の場合は、打者走者を一塁でアウトにできなくても、二塁走者の生還を阻止することだった。打球が飛んでから2秒足らずの時間で、今宮の脳内は“最適解”を探し出していた。

 判断するにあたって、直前のプレーに「ヒント」があった。この回、先頭の福永が放った打球は太田のものよりやや緩い当たりではあったが、同じく二遊間を転がった。今宮はなんとか追いついたものの、一瞬送球が遅れ、内野安打となっていた。

小久保裕紀監督と笑顔で談笑する今宮健太【撮影:栗木一考】
小久保裕紀監督と笑顔で談笑する今宮健太【撮影:栗木一考】

「少しファンブルしてしまいましたけど、あのタイミング(セーフ)だったので。と考えれば、あそこ(太田の打球)は間に合わないだろうなと感じました」。打球速度、相手打者の走力を常に頭に入れているからこそ、選ぶべき答えが分かる。「京セラは他の球場とは違って、ボールが自分の方に寄ってくるので。打球が速いっていうことですね」。球場ごとの特性を把握しているのも、名手たるゆえんだ。

奈良原ヘッドも絶賛「100点満点でした」

 現役時代は華麗なグラブさばきで鳴らした奈良原ヘッドも今宮のプレーに舌を巻いた。「あそこでボールを止めにいくのか、アウトを取りにいって(二遊間を)抜かせてしまうのか。これは経験値が必要なんですけど、アウトを取りにいきながらも『これは難しい』と思ったら、止めればオッケーというプレーもあるので。そういう時はセンター寄りに少し膨らんで走るんです」。さらに続けたのは、名手としての“条件”だった。

「打球を止める代わりに、ホームとの距離ができるので。取ったらすぐに走者を気にしなくちゃいけない。止めるだけでオッケーではない。あまりゆっくりしていたら、(三塁走者を)回してくる可能性がある。すぐに走者を制するかどうか。そこまでがセットになる」

 今宮のプレーを振り返ると、打球を止めた直後に素早く三塁へ送球していた。「あれができるかどうかなんですよ」と奈良原ヘッド。3点リードがあったとはいえ、試合はまだ序盤の3回。さらに、それまで6連勝と勢いに乗っていたオリックス打線がどこで爆発するか分からない。さまざまな要素を考慮した上で、「僕はパーフェクトなプレーだったなと思います。100点満点でした」と今宮を褒め称えた。

 開幕から波に乗れず苦しんでいたチームを救い、今季初の連勝に導いた今宮はあくまでクールだった。「普通のプレーですよ。ショートが特別じゃなく、ランナーが二塁にいる状況であれば、まずは止めることが優先。間に合いそうなタイミングであればアウトにすることを考えますね」。ゴールデン・グラブ賞を5度受賞した名手の思考が凝縮された「1秒99」。味わい深いプレーだった。

【勝っても】本日のナイスプレー【負けても】(2025年4月8日)
【動画:(パーソル パ・リーグTV公式)PacificLeagueTV】

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)