主力らしくなかった「2つのミス」 単独最下位の“一因”…対照的だった中村晃の“当たり前”

真剣な表情を浮かべる中村晃【写真:冨田成美】
真剣な表情を浮かべる中村晃【写真:冨田成美】

初回の攻撃から漂った“不穏な空気”

“不穏な空気”は初回の攻撃から漂っていた。4日の西武戦(みずほPayPayドーム)、1死一塁で柳田悠岐外野手の打球は左翼フェンスを直撃した。西武の左翼手・渡部聖の打球処理は確かに素早かったが、打球を目で追った柳田の走り出しが少し遅れたことは否めなかった。結果的に言えば、1死一、三塁が二、三塁になっていたとしても得点が入る形にはならなかったが、わずかな隙が覗いたワンプレーだった。

 先発の有原航平投手にも気がかりなシーンがあった。両チーム無得点で迎えた4回無死一、二塁で対峙したのが、冒頭で登場した渡部聖だった。2ボール2ストライクと追い込んだが、その後の2球がともにワンバウンドとなり四球。無死満塁とピンチは拡大し、一挙6失点へとつながった。渡部聖は打率5割と絶好調だったとはいえ、ルーキー相手に痛恨の四球となった。

 柳田、有原ともに“わずかなミス”であることは間違いない。それでも苦戦を強いられているチームにとっては「命取り」となる可能性を秘めていた。奈良原浩ヘッドコーチは柳田の走塁について「(打球がスタンドに)入ったと思ったんだろうけど、走るっていうのはホークスとして徹底しているところですから」と注意を促した。その一方で、称賛したのはチーム内でプロ年数最長を誇るベテランの姿だった。

「9回も6点のビハインドがあった中で、最後まで簡単に終わらないという姿は明日につながると思います」。奈良原ヘッドコーチが名前を挙げたのは、9回無死一塁で左翼へヒットを放った18年目の中村晃外野手だった。

代打一本からスタメンへ…「当然ですよね」

 7回無死一塁の場面でも打球を右前に運び、チームを鼓舞するように力強く両手を叩いた35歳。6点を奪われた直後の4回は遊ゴロに倒れたものの、スピードを緩めることなく一塁ベースを駆け抜けた。野球選手として当然の姿であるとはいえ、敗戦の中でその存在はひときわ光っていた。

「あそこ(7回の打席)までヒットを打っていなかったので。集中するのは当然ですよね。打たないと試合に出られなくなってしまうので。勝ってようが負けてようが、そこは全然関係ないです」

 試合後、帰路に就く途中で口を開いた中村は表情一つ変えることはなかった。春季キャンプ中には“代打一本”で今シーズンに臨むことを小久保裕紀監督と確認し合った。近藤健介外野手の離脱という緊急事態でスタメンに名を連ね、出場3試合全てで安打をマーク。必死な思いは痛いほど伝わってくる。

「チーム状況的に苦しい中で、全員が必死にやっているのは間違いないので。なんとかそれが結果に結びつくと、流れはいい方向に変わると思います。シーズンが始まったばかりだからと悠長なことは言っていられないんですけど。去年優勝したという経験値だったり、晃のような頼れるベテランもいますから」

 奈良原ヘッドコーチは中村への厚い信頼を口にした。シーズン序盤とはいえ、単独最下位に沈んだチーム。苦境を乗り越える術を、18年目のベテランは知っている。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)