14日の試合で負傷も折れなかった心「いかないという選択肢はなかったです」
普段、聞いたことがないほどの強い口調だった。報道陣を前に語った一言一言には明確な“意図”があった。「リハビリに行けと言われれば行くしかないですし。それは自分では決められないので。ただ、自分の中ではやりたいし、絶対にいけます」。14日、右脚を引きずりながら本拠地を後にした海野隆司捕手が残した言葉だ。
14日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)。走塁中に右太もも裏への経験したことがない痛みが走った。「初めてのことでビックリしましたし、怖さがありました。正直、『やっちゃったな』という思いでした」。正捕手争いから大きく後退を余儀なくされたかに思われた。
“未知の痛み”にも、プロ野球人生で訪れた最大のチャンスを簡単に諦めるわけにはいかなかった。そのためには使えるものは何だって使う――。ある意味、捕手らしい「頭の切れ」を示したのが、文頭のやり取りだった。海野が伝えたかった首脳陣へのメッセージとは……。
「報道で自分の思いが首脳陣に伝わればいいなという考えはありました。自分の中では少々痛くてもいくっていう気持ちがあったので。あの瞬間は痛かったですけど、感覚的にも別にいけると思ったので。とにかく『やれる、やりたい』ということを言いたかったですね。いかないという選択肢はなかったです」
負傷当日の試合後、小久保裕紀監督は囲み取材で「もう(開幕には)いないものと考えています」と口にしていた。自らの決意をどうにかして伝えなければ、リハビリ組への移管は当然の流れだった。絶体絶命の状況で「いけます」と力強く言い切ったのは、ある種の“計算”だった。
ただ、海野の発言は「わがまま」を突き通したものでは決してない。1年間フルで1軍に帯同した昨季の経験に加え、捕手という役割を十分に理解しているからこそ、“開幕不在”のダメージがどれだけ大きいかを肌で感じている。
「キャッチャーはほかのポジションと違って、復帰したからすぐ試合に出られるというわけじゃないので。ピッチャーとずっと一緒にバッテリーを組んでいくことで、初めて信頼は築いていける。途中から(1軍に)戻ってきた身でいきなりマスクをかぶれるかといったら、そんなわけはないので。開幕の一発目からマスクをかぶるかどうかっていうのは、全然違う。そこに対しての焦りはありましたね」
先発メンバーでたった1つしかない捕手というポジションの特性上、遅れを取り戻すのは非常に難しい。尊敬する存在でもあり、ライバルでもあった甲斐拓也捕手は近年、離脱することなく1軍でプレーを続けてきた。その背中を見てきたからこそ、分かるものがある。
オープン戦ラストとなる23日の広島戦(マツダスタジアム)ではスタメン出場する予定だ。「離脱せずに済んでホッとするのと、後はまた怪我をしないようにというだけですね」。プロ6年目にしてようやく巡ってきたチャンス。おいそれと手放すわけにはいかない。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)