小久保監督は気丈な振る舞いも…試合中にタクシーで病院へ
あまりにもショッキングな光景だった。11日の巨人とのオープン戦(長崎)。2回の守備で三塁方向へのファウルフライを追った栗原陵矢内野手がフェンスに激突した。古傷の左膝を強打し、苦悶の表情を浮かべた28歳。自力で立ち上がることができず、担架に乗せられてグラウンドを離れた。試合中の午後3時過ぎには、球場に呼ばれたタクシーに無言で乗り込んだ栗原。車中では左膝にアイシングを施しながら、うつむく姿があった。
球団スタッフも落ち着かない様子で球場を出入りする姿が見られるなど、チームにとって想定外すぎるアクシデントだった。試合後に取材対応した小久保裕紀監督は「試合中のケガは防ぎようがないので。今のところは何も聞いていないし、病院に行っただけです。(栗原が)おらんかったらおらんかったで次の選手がやるしかないので」。気丈にふるまったが、“主力中の主力”と言える栗原のアクシデントが気にならないわけがない。
一目散にベンチを飛び出した奈良原浩ヘッドコーチ、そして、左翼から駆け付けた正木智也外野手。グラウンドに倒れ込んだ栗原の姿を間近で見た2人の言葉から、当時の状況を振り返る。
「『時間をちょっと空けてもらっていいですか』みたいな言い方をしていたから、時間を取れば大丈夫かなという感じでしたけど。最初から無理ですというサインはなかったので。すぐに力が入らない感じだったのかなとは思うんですけどね……」
アクシデントの直後に交わした会話を明かしたのは奈良原ヘッドコーチだ。「病院の診断結果が出ないと、なんともコメントはしずらいけど」と前置きした上で、こう続けた。「いこうと思えばいけたのかなとは思うけど。(痛めた)場所が場所だし、今の時期に無理をさせたくないというのはもちろんありますね。シーズン中ならそのまま行かせた可能性もあったけど」。
プレー不可能な重症という見方はしなかったものの、一方で楽観視することもなかった。「意外と翌日にいけるって人もいるし。その時はアドレナリンが出て大丈夫だというけど、ふたを開けたら全然ダメだったっていうケースもあるから。こればかりは今ジャッジはできないかなと思いますね」。そう口にしつつ、「今病院に行っているので、とにかく診断と、本人の感覚。それを合わせて明日の判断になるかとは思いますけどね」と語った。
正木も神妙な表情で当時の様子を口にした。「最初は『息がしにくい』って言っていて。胸のあたりを打ったのかなと思ったんですけど。なかなか立ち上がれなかったので。大丈夫かなと思いながら見ることしかできなかったです」。
すぐさまトレーナーが駆け付けたため、栗原に声をかけることはなかったが、「きつそうだなとは思いました」。自身は3回に適時三塁打を放つなど活躍を見せたが、「とにかく無事であってほしいです」と一切笑みを浮かべることなく、先輩の容態を心配するばかりだった。
昨季は140試合に出場し、三塁でベストナインとゴールデン・グラブ賞に輝くなど欠かせない戦力であると同時に、今春キャンプではS組不在の際に先頭に立ってチームを引っ張るなど、リーダーシップも見せてきた栗原。今は最悪の事態にならないことを願うしかない。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)