昨年は50試合に登板して2勝2敗14セーブ、23ホールド、防御率2.89を記録した。12月の契約更改では「(ロベルト・)オスナがいなくなって、僕が9月に離脱して、(ダーウィンゾン・)ヘルナンデスが投げて杉山(一樹)が投げて……。ライバルは多いので、負けないように。その中でも一番を取れるように」。守護神への意欲をハッキリと口にした。
当然、任されたイニングを全力でこなしてきたから、今の松本裕がある。「メディアの方々が煽るので、そういうふうになるんです」とジョークも飛ばすが、半分は本音だ。「自分がいい成績を残せばついてくるものなので。こっちがどうこうできるものではない。具体的な目標というよりは、結果的に(守護神に)そうなっていれば」。これまでも、慎重な発言を繰り返してきた印象がある。なぜこのタイミングで、守護神という明確な目標を口にするようになったのか。9回にしかない“感情”を味わったからだ。
「9回は、試合の流れの中の1つのアウトじゃない。終わった瞬間に勝ちが決定する。終わった瞬間に解放される部分が、他のイニングよりは大きかったですかね」
7回や8回はまだ試合の途中。“流れ”を頭に入れながら登板し、相手打者と対峙してきた。一方で守護神は、3つのアウトを奪うことに集中する。勝利の瞬間にマウンドに立てていることは、何よりの喜びだと知った。「自分の立場的に、やるからには一番後ろを目指すのはプレーヤーとしては当たり前だと思う。その気持ちを切らさずに目標を高く持つということです」。オスナという存在がいるが、己を高める意識は絶対に失ってはいけない。本気で掲げるからこそ、価値のある目標だ。
2023年は53試合に登板して2勝2敗、25ホールド、防御率2.68。セットアッパーとしての地位を築き、2024年にさらなる進化を遂げたように見えたが、本人は「去年の方がしんどかったですね」と言う。マウンドの上では人知れず、葛藤を抱えていた。
「自分の中でパフォーマンスに納得できていない部分が多かったので。難しくしていた部分もありました。周りの環境の変化もその一因になるかもしれないですけど、それよりも自分の中でちゃんとハマっていない中でポジション変更もあったので。そういうのもあって、しんどかったと思います」
リリーフながらも豊富な球種を操り、投球に幅があることも松本裕の武器。しかし「投げ切れていなかった部分が多いです。ごまかす意味でも、腕を振るしかなかった感じです」と、直球で押すスタイルに自然と傾いてしまった。安定したパフォーマンスを示していたように見えたが、「全然でしたよ。だから真っすぐでいくしか、一生懸命投げるしかなかった」と右腕は首を横に振る。右肩痛で9月5日に登録抹消。リーグ優勝した直後も「もっとできることがあったと思います」と反省をこめながら話していた。
最速は159キロにまで成長。「160」の大台まであと1キロで「しっかり取り組んでいればいずれは出ると思うし、求めに行く練習は常にしています」と見据えている。「球速は結果に大きく繋がる部分。マックスも、平均的なスピードも年々上がってきているので。そこが自分の中では一番大きいです」。かつては先発への強い希望を口にしていた。芽生えつつあるのは、与えられたポジションでチームを支えるという明確な自覚だ。
「先発をやれと言われたら、そこに全力を注ぎますけどね。リリーフだと、短期的に自分の能力を上げることに集中すればいい。調整のしやすさ、先発にある難しさがないのかなと思うので。自分の能力を高めることに集中できていると思います」
昨シーズンのリーグ優勝を決めた瞬間、マウンドにいたのはヘルナンデスだった。今年こそ、自分が――。「個人的には1年間、まずはしっかりと投げ続けること。達成したいことの1つですし、チームでいいポジションを守れたら、それなりの成績はついてくると思います。他にもいい選手はいっぱいいる中で、最後まで守り続けることを叶えていきたいです」。1人の投手として、どこまでも高みにのぼり詰めたい。