“ポスト甲斐”争いの現在地「見えてこない」 コーチの“嘆き”、求める正捕手の条件

春季キャンプA組の海野隆司、盛島稜大、渡邉陸、谷川原健太(左から)【写真:長濱幸治】
春季キャンプA組の海野隆司、盛島稜大、渡邉陸、谷川原健太(左から)【写真:長濱幸治】

捕手4人がA組スタート…物足りなかったブルペンでの“姿勢”

 宮崎春季キャンプは3日目を終えたばかりだが、“ポスト甲斐”を巡る正捕手争いは早くも熱を帯びている。「楽しみですね、キャッチャーは。誰が出てくるのか。選手同士の争いを邪魔しないように、とにかくじっくり見たいと思います」。キャンプ直前、そう口にしていたのは小久保裕紀監督だった。

 A組には海野隆司捕手、谷川原健太捕手、渡邉陸捕手、そして育成の3年目の盛島稜大捕手と4人のキャッチャーが名を連ねた。ポスト甲斐争いでまずはスタートダッシュを切った形だが、その姿を厳しく見つめているのが首脳陣だ。高谷裕亮バッテリーコーチは初日から檄を飛ばしたことを明かす。

「『俺が一番目立ってやる』っていう感じが、ちょっとまだ見えてこない。固くなっているのか、遠慮しているのか、緊張しているのか。それは本人たちの気持ちなんでわからないですけど。『自分はここにいるんだぞ』っていうのを、みんなに知ってもらわないといけないし、それくらい目立ってほしいっていうのはありますよね。そういった話は初日のブルペンが終わった後に話しました」

 初日はA組に入ったほとんどの投手がブルペン入りした。もちろん捕手の4人もボールを受けたが、その姿勢が高谷コーチの目には物足りなく映っていた。

バットを片手に、捕手陣を指導する高谷裕亮バッテリーコーチ【写真:長濱幸治】
バットを片手に、捕手陣を指導する高谷裕亮バッテリーコーチ【写真:長濱幸治】

「あそこでキャッチャーが活気を作り上げようという姿を見せてほしい。ブルペンってちょっと物々しい雰囲気だし、A組は特に空気が違うじゃないですか。僕も若い時に経験しているし、気持ちはわかるんですけど。そういう時にバカになってもいい。間違ってもいいから声を出す。よかったら『ナイスボール』って声をかける。そういうことが信頼関係でにつながっていくと思うんです」

 甲斐拓也捕手が長年マスクをかぶってきた中で、高谷コーチは正捕手に必要な条件を挙げる。「必要最低限の技術はもちろん必要ですけど、僕が思うのは“はったり”でもいいので、堂々としてることですね。やっぱりキャッチャーが不安がってやっていたら、間違いなくチームに伝染するので。ビビって指が出るのが遅くなって、ピッチャーも不安になるっていうのは絶対にあるので。自分が信じてサインを出せるように準備してほしいですね」。

 横一線のサバイバルだからこそ、小さなミスでも命取りになる可能性もある。その緊張感が固さにつながっている面は「きっとあるとおもいます」と高谷コーチ。それでも、恐怖と向き合っていくしかない。

「僕なんか1年目にいきなりペイペイドームでスタメンで出て。風もないのにキャッチャーフライを落としましたから、万歳して。あんな『ぎゅーん』って曲がるとは思わずに、『プロの打球ってそこも違うんだ』と感じましたね」。自らの経験を引き合いに出しつつ、「みんなが見ているポジションなので。それを覚悟でやっているわけです。重圧を跳ね返す意味でも『俺を見てくれよ』っていうものを出してくれればいいかなと思います」と期待を込めた。

 小久保監督も自らの発言の意図を明かした。「邪魔をしないという意味は、このキャンプを通してキャッチャーの評価を僕の口から言わないということです。それをしてしまうと、邪魔をすることになるので。最後まで見守ります」。自身の考えをあえて胸にとどめることで、選手に100%の力を出してほしいという思いからだ。

 首脳陣もかたずをのんで見守る正捕手争い。キャンプはまだ始まったばかりだが、当の選手にとっては毎日が正念場だ。3月28日、本拠地で行われるロッテとのシーズン開幕戦で誰がマスクをかぶるのか。目の離せない日々が続きそうだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)