2025年から久保田スラッガーとアドバイザリー契約…実現につながった「絆」
ソフトバンクの周東佑京内野手が、2025年から「久保田スラッガー」とアドバイザリー契約を結ぶことが決まった。その経緯に、担当者である梅田歩夢さんとの信頼関係が表れていた。「お前ならいいよ」――。愛用するグラブのおかげもあり、ゴールデン・グラブ賞を初受賞した2024年。周東らしい“こだわり”と、信頼感の詰まったやりとりに迫っていく。
梅田さんは鹿児島県出身。西南学院大を経て、2021年に久保田運動具店に入社し、周東と出会った。ホークスの担当となって、今シーズンが3年目。「年が近い選手がいっぱいいるので、野球以外の話もしたりして。メーカー関係なく何かがあった時に頼ってもらえるように、日頃の会話を大切にしていました」と密なコミュニケーションを心掛けてきた。
過去には元阪神の鳥谷敬さんや、本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチ、現役では阪神・近本光司外野手らが久保田スラッガーのアドバイザーを務めている。カタログにも名前が掲載されるようになり、より密接な形でサポートしてもらえる。一体、どんな経緯で周東は頷いたのか。梅田さんが明かしたのは、今宮健太内野手によるまさかの“助言”だった。
「佑京さんに『アドバイザーどうですか?』って話をしたんです。最初は『また契約?』みたいな。他にもアディダスとか、いろんなサプリの契約をしているじゃないですか。だから、契約って言葉だけでちょっとめんどくさがっている感じがあったんです(笑)。その横に今宮さんがいて、『お前、嬉しいことやんか』『誰でもしてくれるわけじゃないやん』って言ってくれたんです。佑京さん(の素振り)も冗談だったと思うんですけど、『確かに』って感じで」
夏場の出来事だったという。2024年シーズンでの活躍を踏まえ、オファーした。「本多コーチ以来、(ホークスの選手で)アドバイザーがいなかったですし。タイミング的にも今かなと。会社の判断もあって、プッシュすることになりました。明確な基準があるわけではないんですけど、今年はセンターで1年間出てくれたので」。知名度ある選手が愛用してくれるのは、メーカー側にとってもこれ以上ない宣伝となる。周東の反応を踏まえて会社とともに考えを揉み、10月上旬にもう1度お願いしに行った。
「来年お願いしますと伝えました。『マジで? ありがとう』『グラブだけでいいの?』みたいな感じだったんですけど。『お前が担当、変わらないならいいよ』って、そこで言われました」
周東なりの“憎まれ口”であり、照れ隠しでもある。冗談とわかっているだけに、梅田さんも「嬉しかったです」と笑顔になった。まだまだ先のことではあるが、「40歳まで(現役を)やりたいって仰っていましたよね。少しでも支えられたらと思います」と、決意は新たになった。
「プロに入って一番獲りたかった」というゴールデン・グラブ賞を初受賞した周東。外野手として好プレーを連発したことで、シーズン途中からは明らかに意欲を口にするようになった。そんな様子を梅田さんも目にしてきた。「メーカーにしたら一番アピールできるタイトルですから」と、受賞をともに喜んだ。2025年用のグラブを作成するにあたり、周東から大きな要望があったという。それが、ゴールデン・グラブ賞を受賞した選手だけが着用できる“黄金のラベル”だ。
「佑京さんの方から言ってきました。ラベルを作ってほしいと。ローリングスがやっていることでもあるので、真似なのかなとも思ったんですけど、話を聞くとそうでもなかったです。『そういうのがあった方が頑張れる』って言ったんです。結構あの人、特別なものが好きなところがあるので。そういう意味だと思います」
2025年、このラベルをグラブに刻めるのは周東と近本の2人だけ。刺繍には「2024」の数字を入れた。2025年シーズンでゴールデングラブ賞を受賞できなければ、通常のラベルに戻すという覚悟の現れだ。「そういうのがあった方が頑張れる」という言葉は、梅田さんにとっても意外だった。「普通に野球少年みたいなこと言うんだなって思いました。プロの人も新しいグラブが来たらめっちゃ喜ぶし、そういうところも野球少年と一緒ですよね」と笑って明かした。
アドバイザーになったことで、2025年からは久保田スラッガーのカタログに周東も仲間入りする。「Q&A」の項目があり、「用具への思いや期待」という質問を本人にLINEでぶつけたという梅田さん。返事はたった一言だった。「ゴールデン・グラブ賞を毎年獲れるグラブ」。シンプル過ぎる要望に「思いが嬉しかったです。この感じからしても、本当に毎年獲りたいんやなって思いました。1年間通して出ないと獲れないタイトルですから」と決意を受け取った。信頼を大切にしながら、突っ走る周東をすぐ隣で見ていたい。
(竹村岳 / Gaku Takemura)