“生のデータ”で明らかにする周東佑京「実際の速さ」 2位に大差…衝撃記録「81回」

ソフトバンク・周東佑京【写真:小池義弘】
ソフトバンク・周東佑京【写真:小池義弘】

象徴的だったのは4月7日の楽天戦…3回無死一塁でのシーン

 周東佑京内野手の俊足ぶりは、野球ファンなら誰もが知るところだろう。今季も両リーグ最多の41盗塁を記録し、自身3度目のタイトルを獲得。客観的なデータからもスピードスターの実力はわかるが、実際にどれほど速いのか、スピードそのものを実感することはできない。盗塁が多いほど足が速いという単純な図式ではないからだ。

 今回はスピードをより直感的に感じられる“生のデータ”で、たぐいまれなる快足を検証していく。数値を見ていくと、今季選手会長に就任した周東が「足」でリーダーシップを体現していた様子が浮かび上がってきた。

 ここで取り扱う“生のデータ”は、打者が打ってから一塁を駆け抜けるまでの「一塁到達タイム」だ。DELTAでは、NPB映像で取得できる全プレーを対象に一塁到達タイムを集計しており、目安としては右打者であれば4.2秒、左打者であれば4.0秒を切れば俊足の部類といえる。この数値から周東のスピードを見ていきたい。

 はじめに2024年の一塁到達タイムをランキングで見てみよう(表1)。このデータは一塁への到達時間を短縮できるバントを除いている。注目したいのが、そのタイムだ。トップの記録は3.628秒。左打者なら4秒を切れば俊足と紹介したが、その目安より0.4秒も速い。NPBにおけるトップクラスは、これほどまでにハイレベルなのだ。

 この3.628秒を記録したのは、岩田幸宏外野手(ヤクルト)だ。4年目の今季に1軍デビューを果たし、81試合の出場で10盗塁を記録した27歳の新星ということもあり、名前を知らないホークスファンも多いのではないだろうか。こういった足のスペシャリストは、どの球団にもいるものだ。さすがプロ野球である。

 圧倒的なタイムをマークした岩田だが、このランキングを席巻したのは、やはり周東だった。1位の座こそ譲ったものの、2〜12位の記録を独占。トップ20に範囲を広げても、なんと18度も名を連ねる結果となった。周東以外にランクインしているのは、岩田と梶原昂希外野手(DeNA)だけだ。

 とはいえ、秒数だけを見ても実感が湧かない人もいるだろう。そこで、2024年4月7日の楽天-ソフトバンク戦(楽天モバイル)の一場面を紹介したい。3回無死一塁で打席に立った周東が見せた走塁だ。

 8球目を引っ掛け、詰まった打球は一塁方向に転がった。一塁手の茂木栄五郎内野手が前進してボールをさばき、すぐさま振り向くと、すでに周東は一塁ベースまであと数歩のところまで迫っていた。慌ててベースカバーに入った藤井聖投手にボールをトスしたが、時すでに遅し。周東は悠々と一塁ベースを駆け抜け、内野安打となった。

 守備側に何のミスもなかった平凡なゴロがセーフとなった一連のプレーは、周東の俊足ぶりをあらためて印象付けた。一方で、この場面で記録された一塁到達タイムは3.77秒。驚異的な速さではあるものの、今季周東が記録したタイムの中では26位にとどまった。言い換えれば、このレベルのスピードをシーズン中に幾度となく見せていたことになる。

 実際に4秒以内の到達タイムを記録した「回数」に注目してみても、その存在は傑出している。2位の岡林勇希外野手(中日)が52回をマークしたのに対し、トップの周東は81回と圧倒的な差をつけていた。単に球界随一の俊足というだけでなく、それを何十度も繰り返していた。

 81回という記録は、過去と比較してもずば抜けた数字だ。表3は周東が一塁到達タイムで4秒以内を記録した回数をシーズン別に示したものだ。これまでの最多は2020年の62回。これも十分に多いが、今季はさらに20回近くも上回った。2024年は最も多く全力疾走を繰り返した1年だったようだ。

膝の痛みを抱えながらも続けた全力疾走 にじむチームリーダーの自覚

 ただ、今季の周東が全力疾走を繰り返せるほど万全の状態だったかというと、そうではない。開幕前から左膝に違和感を覚えていたことを本人も明かしており、シーズン中も痛みを抱えながらのプレーを強いられていた。日本シリーズが終了した直後に手術を決断したことからも、かなり深刻な状態であったことがうかがえる。

 データ面からも明らかな“変化”が見える。一塁到達タイムを月別に見ると、開幕から6月までは4秒以内のスプリントを月に20回ほど記録していたが、7月は8回、8月は7回、9月は8回と大きくペースを落とした。これは周東が夏場以降にコンディションを悪化させた可能性を示唆している。

 ただ驚くべきは、コンディションが悪い中でも全力疾走を繰り返していることだ。9月1日のロッテ戦(ZOZOマリン)では、初回に一塁正面へのゴロを打ったあとに猛ダッシュ。それほど弱い打球でもなく、投手のベースカバーがもたついたわけでもないのに、ギリギリのタイミングでアウトとなった。膝の痛みを抱えながらのプレーだったとは思えないほどのスピードだった。

 周東が7月以降に4秒以内の一塁到達タイムを記録したのは23回。期間中のランキングで見ると、全体の6位にあたる。シーズンオフに手術を決断しなければならないほどの痛みを抱えながらも、球界トップクラスのスピードでスプリントを繰り返していたのだ。

 ここまでのデータを見ると、周東の中にはリーダーとしての「自覚」があったのかもしれない。今季から選手会長に就任し、事あるごとに責任感を口にしていた。故障を抱えながらも全力疾走を繰り返したのは、まさに覚悟を背中で示していたといえるだろう。満身創痍の身体の内に秘めたリーダーの自覚を、データは如実に物語っていた。

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。