戸惑い隠せなかった、シリーズ直前での中継ぎ起用
鷹フルでは大津亮介投手の単独インタビューを行いました。今回を含め、3回に渡ってお届けします。第1回のテーマは「日本シリーズでの敗戦」について。今季は先発としてレギュラーシーズンを投げ抜きましたが、日本シリーズでは中継ぎでの登板となりました。決戦直前の首脳陣とのやり取りや、心境を包み隠さず明かしてくれました。
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「7勝7敗なので、個人的には悔しい結果で終わってしまった。来年は絶対に2桁勝利をしたいです」
シーズンを終えて、残ったのは悔しさだった。大津は2年目の今季、中継ぎから先発に専念した。前半戦だけで6勝を挙げる最高の滑り出し。首位をキープしていたホークスの原動力とも言える活躍だった。しかし、厳しい夏場を迎えると、なかなか勝ち星を手にすることができず、7勝目を挙げたのは10月4日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。シーズンでは19試合に先発して7勝7敗、防御率2.87の成績を残した。
先発1年目で、申し分のない成績を残した。それでも「本当に気持ち的に、自分の中で先発じゃなくて中継ぎに回るメンタルが悔しかったんです」と振り返ったのは、DeNAとの日本シリーズだ。敵地で2連勝を飾り、本拠地に戻って迎えた第3戦。1-1の5回に2番手で登板し、先頭の桑原にいきなりソロ本塁打を浴びた。さらに内野安打と四球で無死満塁とすると、筒香には右犠飛を許して降板した。
1イニング持たず、1/3回で2失点という悔しい結果。レギュラーシーズンはすべて先発だっただけに、中継ぎで調整する難しさもあった。「投げるなら中継ぎでも投げるしかないという気持ちでいって、その出鼻をくじかれました」。悔しさを口にした右腕が、日本シリーズを中継ぎとして迎えることになった舞台裏と、心境を明かした。
「CS(クライマックスシリーズ)はローテーションに入れて順番が回ってこなかったんですけど、日本シリーズは入れなかった。そこに対して『なぜ?』っていう気持ちがあって、自分の中では戸惑いが多かったんです。だけど、監督、コーチが決めることなので、そこは割り切ってやろうと臨んだ日本シリーズでした」
日本一を決める頂上決戦が始まる直前、倉野信次投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から個室に呼ばれた。「自分の中では『中継ぎに回るんだろうな』って雰囲気はチラホラと感じていました。そこに対しての気持ちの持っていき方は難しかったです」。自身が予想していたとおり、日本シリーズでのリリーフ起用を告げられたという。
「『1年間本当によくやってくれた。最後はどうしても調子のいい人、チームが勝つために確率が高いというか、勝つことだけを考えると中継ぎに回ってもらうことになる』みたいな感じで伝えられました」。日本ハムと激突したCSファイナルステージでは、先発として準備していた。結果的に3連勝で順番は回ってこなかったが、自分の力で登板を掴んだのは間違いなかった。だからこそ、日本シリーズで先発できない悔しさが右腕を襲った。
入団前から先発の希望を何度も口にしてきた。誰よりもこだわりを持ってやってきたからこそ、自身の中にうまく落とし込めずにいたという。「予想外というか、僕自身も(桑原に)初球をホームランにされた経験がないというか。スタートが悪かったです。いい試合をしていたので、余計に自分に『おい』、『やばい』といった感情がマウンドで出てきたので……」。日本中が注目する大舞台。動揺はボールに表れてしまった。2連勝で迎えた大事な一戦で大津は、敗戦投手になった。
その日の夜はもう「覚えていない」というほど。傷心に染みたのが、妻の優しさだった。「どう話しかけたらいいのか、難しかったんだろうなって思います。優しく、どうにか笑顔にしようと接してくれているんだろうなというのはすごく伝わりました。帰っても1人じゃなかったので、そこが救いでした」。家族の存在を改めて感じる夜になった。
シーズン中も本拠地で先発した日には、必ず妻の姿があった。「僕がどれだけストレスだとか、悔しい思いをしているのか、打たれた日の夜に僕がどんな顔をしているとか、一番知っていると思います」。1年目から、悔しければ試合中でも涙を流した。感情を隠さずに、表に出していくことも右腕の代名詞。そんな大津を誰よりも理解し、支えてくれる存在がいた。日本シリーズという特別な舞台での敗戦投手。普段以上に気を遣わせてしまったことに頭を下げた。
「去年はCSを経験して、今年は日本シリーズで投げさせてもらった。悔しい思いしかできていないので、この気持ちを来年に全てぶつけていきたいです」。時間が経っても、忘れることができない。思えば1年目の悔しさは、今季の糧にできた。家族のため、自分自身のために――。来季はさらなる飛躍の年にしてみせる。
(飯田航平 / Kohei Iida)