契約更改に臨み現状維持でサイン…甲斐拓也の移籍に「思うことはいっぱい」
ファンも待ち侘びた“3人”が、ついに揃いそうだ。別れであると同時に、それぞれの船出も意味していた。「そっか、頑張れよ」――。
巨人は17日、ソフトバンクから国内FA権を行使していた甲斐拓也捕手の獲得を発表した。11月13日に「FAを取ってからが一流だと思っていた。野球選手として(他球団の)評価を聞いてみたい」と発言してから1か月以上。2024年、セ・リーグを制したチームへの移籍で決着した。同日、みずほPayPayドームで契約更改に臨んだのが、牧原大成内野手だった。
今季は3年契約の1年目。78試合に出場して打率.283、2本塁打、13打点という成績に終わった。2010年育成ドラフト5位で入団した牧原大と、同6位の甲斐、同4位だった千賀滉大投手(メッツ)。それぞれが這い上がり、ホークスの主力となった3人は“育成の星”と呼ばれ、強いホークスを築き上げてきた。甲斐の巨人移籍には「思うことはいっぱいありますけど、昨日の夜も拓也から電話が入っていた。朝起きて、ちょっと話をして。『頑張れよ』と、一言だけ言いました」とやり取りを明かす。そして、こう続けた。「今度も会うので」。
近日中に、食事をする予定があるという。昨オフは甲斐だけでなく奥村政稔3軍ファーム投手コーチや、中谷将大リハビリ担当コーチ(野手)も集まり、1992年世代の“同級生会”が開催された。今回も「そういう感じです。(千賀も)多分来ると思いますよ」と、再び豪華なメンバーが揃うことになりそうだ。
16日の夜、甲斐から電話がかかってきていた。すでに寝ていた牧原大。目を覚まし、着信を見て、決断を察したそうだ。すぐに掛け直すと、1分ほどのやり取りで会話は終わった。「拓也が『その通りや』『(報道に)出ている通りよ』みたいな感じで言っていたので。『そっか、頑張れよ』っていう話をしました」。育成ドラフトからプロに入って14年。千賀と甲斐は、いつまでも大切な存在だ。
「千賀もメジャーに行って、拓也がセ・リーグ、僕はパ・リーグに残る。バラバラになってしまいますけど、もう1回3人で頑張っていけたら。2人ともすごいところまで行ってしまったので、あとは僕がホークスでしっかりと頑張っていきたいというだけですね」
来年1月にはグアムで1週間ほどの自主トレを行う。「松田(宣浩)さんに鍛えてもらったスタート地点の場所。自分もそこに戻って鍛え直そう、と。代々、グアムでのトレーニングはいろんな方がやられていて、なくなるのは寂しい気持ちもありましたし。僕が受け継いでいけたら、また『次の選手が……』となっていくと思うので」。そこには藤野恵音内野手、中澤恒貴内野手、山下恭吾内野手、西尾歩真内野手らが参加する予定だという。
昨年の契約更改で牧原大は「『あなたたちは育成選手なんだよ。もうちょっと自覚持ってやらないと終わってしまうよ』と言う話はしました」と苦言を呈していた。今シーズン中も「今の若い選手は練習しなさすぎるんです。本当に“死ぬくらいのレベル”で1回やらないと」と、その思いは変わっていなかった。3桁を背負う若鷹たちに自ら寄り添ったのも、自分自身のルーツを大切にしているからだ。
「支配下の選手にも頑張ってほしい気持ちはあるんですけど、僕は同じ境遇から始まった人間を応援したくなる。あいつらがどんどん1軍に出てきてほしいですし、支配下を勝ち取ってほしい思いは強いので。そういった意味も込めて、育成の子たちを何人か連れていきたいと思っています」
今季は牧原大自身も2か月以上、ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」でリハビリ生活を送った。育成選手たちを近くで見て、才能を感じる若鷹も確かにいた。「正直、技術を教えようと思っていないです。データも今はすごくあるし、練習する場所もすごく充実している。足りないのはハングリー精神とかだと思うので、今回は『2度の来たくない』と言われるくらいキツいことをします。そこについて来られるように、しっかりやろうと思っています」。負けん気の強さは、入団時から衰えるどころか、強くなるばかり。自分にもできたのだから、今の若鷹にもできると信じている。
「僕が松田さんのところに行った時も(2度と来たくないと)思いましたね。でも結局、そのキツさが1軍でやれる秘訣になると思う。そういうところも含めて、いろいろ学んでもらえたら」
牧原大がドームを去る際、純粋な質問をぶつけてみた。甲斐の移籍が決まり「寂しくはありませんか?」。首を横に振る。「それはないですよ。拓也が掴んだものですし、それを外野がどうこう言っちゃいけないです。言ってしまったら“ファン”じゃないですよ」。誰よりも努力を知り、応援するからこそ心からの本音。「寂しい」と言ってはいけない――。そんなふうにも聞こえた。
(竹村岳 / Gaku Takemura)