ソフトバンクの板東湧梧投手が12日、みずほPayPayドームで契約更改交渉に臨み、800万円ダウンの3200万円でサインした(金額は推定)。今シーズン中の最速は145キロと、主に出力の面で苦しんだ。「何をやってもうまくいかないというか……。こんなに頑張っているのにと思いながら、苦しい気持ちが日を追うごとに強くなっていった。最後の最後、感覚が良くなってきたので。今も投げるたびに良くなっています」。苦しさを吐露した一方で、来季に向けての手ごたえも口にした。
2023年はキャリアハイとなる5勝を挙げるなど、先発と中継ぎで30試合に登板してチームに貢献した。迎えた2024年、開幕ローテーション争いに加わろうと必死に準備を重ねたが、1軍登板なしに終わった。ウエスタン・リーグでも14試合に登板して3勝2敗、防御率3.88と、本来の力を出すことができずに終わった1年だった。
来年12月には30歳を迎える。若手ではなく、もう中堅と呼ばれる立場となった。同学年の古川侑利投手や渡邊佑樹投手らが戦力外通告を受ける姿を見て、「他人事じゃない」と危機感を口にしていた。契約更改交渉に同席した三笠杉彦GMが明かしたのは、来季契約を結んだ2つの理由。「復活」という言葉を使って、ハッキリと表現した。
「昨年までの1軍での活躍を振り返ると、今年のいろんな苦労を糧に(来年は)頑張れる可能性があると思って契約をさせていただきました。プロ野球の選手をやっていくにあたって、当然浮き沈みがある。うまくいかないシーズンもあれば、それを糧に復活した選手は今までにもいると思います。彼の場合はそういう可能性があると思いました」
2023年の最速は153キロだった。板東が本来の能力を発揮できれば、必ず1軍でも通用すると球団も期待している。三笠GMは「取り組みもしっかりしている選手。本人も『何をやってもうまくいかなかった』と言っていましたけど、復活への取り組みをしてくれる選手だと、球団としても評価しています」。見失ってしまった感覚をもう1度取り戻すのは、簡単な道のりではないかもしれない。それでも期待させてくれるだけの姿を、右腕は日々の行動から見せていた。だから2025年も、戦力として契約を結んだ。
板東の目線からも、交渉を振り返った。「『来年も期待している』と言っていただきました。まずは契約していただいて感謝ですし……。『今シーズン、1軍登板なしに終わってしまったけど、ダメだったところから復活してきた選手を何人も見てきた。そういう選手になってくれると思っている』と言われたので、応えられるように頑張りたいです」。不甲斐なさは、誰よりも自分自身が抱いている。必死に光明を探している中で、球団からの言葉と期待は、改めて決意を新たにするきっかけにもなった。
ファーム施設「HAWKS ベースボールパーク筑後」で過ごす時間がほとんどだった2024年。投手陣全体の動きが終わっても、室内練習場に1人で残り、ネットスローやシャドーピッチングを行う姿が何度も見られた。「来シーズン、野球ができるかどうか……と思っていました。(交渉でも)『長くフロントにいる中で、這い上がってきた選手を何人も見てきた。そうなれると思っている』と言ってもらえました」。自分のためだけに取り組んできたつもりが、周囲はしっかりと見てくれていた。あとは結果で応えるしかない。
「戦力として見てもらっているんだなと感じました」
苦しんだ要因も、今だから落ち着いて分析できる。「自分は1個のことにハマりやすい。とことんやるんですけど、それがいい方向じゃなかった。良くないウエートのやり方が、体を機能的に動けないようにしていた。それをリセットしたから、いい感覚が出てきたかなと思います」。2022年オフから筋力アップに取り組んできたが、数字に繋げることはできなかった。「最初の方はすぐ良くなると思っていたんですけど、どんどんドツボにハマった。冷静になれば、もっと方法はあった」。苦い経験も糧にして、あとは期待に応えるだけだ。
右腕が持つポテンシャルと実直な日々の取り組みが評価されて、契約更改の日を迎えた。「どんな形でも野球は続けると決めていました。その中で、契約してもらえたらとは思っていました」。2024年、自問自答はたくさんした。来シーズンこそ、マウンドで笑う板東湧梧が見たい。