小久保監督が忘れない周東の“ミス”「あり得ない」 苦言の舞台裏にあった感情の“揺れ”

ソフトバンク・周東佑京【写真:小林靖】
ソフトバンク・周東佑京【写真:小林靖】

6月8日のDeNA戦で苦言「あり得ないプレーを起こしている隙」…明かした真意

 今季の印象的なシーンの1つに、小久保裕紀監督が周東佑京内野手に苦言を呈した6月8日のDeNA戦(横浜)が挙げられる。「あれはあり得ない」――。選手会長にあえて厳しい言葉をかけた理由とは。鷹フルの取材に応じた指揮官は真意を包み隠さずに明かした。

 シーズン最終戦となった10月4日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)を勝利で飾った。試合後のセレモニーであいさつをした指揮官。「佑京の能力からして、大谷翔平(投手が記録したシーズン59盗塁)よりも少ないのは、監督として納得していません」。スタンドの笑いを誘ったが、「あれは本音で言ったのよ」と改めて繰り返した。41盗塁で2年連続3度目のタイトルを獲得したが、誰よりも期待しているからこそ、もっと高い数字を求めていた。

 時は遡り、6月8日のDeNA戦。投ゴロで一塁を駆け抜けた周東は判定をアウトだと思い込み、フェアゾーンからベンチに戻ろうとした。しかし、審判はセーフの判定。塁を離れた形となった周東はタッチアウトとなり、チャンスを広げられなかった。試合後、小久保監督の囲み取材はわずか50秒。「ノーアウトランナーなしであの隙……。あり得ないプレーを起こしている隙だと思う」。名前こそ出さなかったが、一連のプレーを断罪した。

 新人監督として駆け抜けた2024年。囲み取材には必ず応じてきた指揮官が残してきたコメントの中でも、際立って強烈な内容だった。あの周東への言葉は「怒ったフリだったんよ」と、今だから明かせる。“前兆”を感じていたからこそ、厳しく言及した。

「(あの走塁ミスも)『いつかするな』『いつか、ああいうことがあるね』って考えをしていた人もいた。あれはあれで、あそこで出て良かったミスでした。盗塁でも、自分でアウトって決めつけて帰ってくる時があるでしょ? そういうシーンもあったし、全部が繋がるよね。アンパイアがジャッジをして初めて(プレーは終わる)。どっちかわからない時に、パッと戻ってくる時もあった。そういうのはやめた方がいいよね」

 判定を待たず、ベンチに帰ろうとする周東の姿を首脳陣は何度か見ていた。「足の速い選手あるあるなんです」と、小久保監督は予感すらしていたのだ。指揮官が大切にする言葉は「勝利の女神は細部に宿る」。ほんの小さな隙さえ、見逃していなかった。

 2軍監督時代から、メディアを通して選手に考えを伝えるのが“小久保流”だ。「選手は僕のコメントを見ているとわかっている」。だから「怒ったフリ」で、周東にもメッセージを届けた。囲み取材で苦言を呈した翌日のミーティングでは、すぐに1軍から4軍まで、新しいルールを統一した。

「『佑京も反省しているやろうけど』ってところからスタートして、『あれはあり得ない』という話はしました。あの場合は(球団内の)ルールにないことやったけど、追加して2軍から4軍まで一斉に流した。『これは禁止。フェアゾーンではなく、ファウルゾーンから帰ってくること』ってしたのよ。(以降、周東の変化は)感じたし、同じことはなかったよね。それは当たり前。そこで主力やから許されるということをすると、チームはまとまらないので。ダメなものはダメっていう話です」

 オープン戦の時点から左膝に違和感を抱きながらも、123試合に出場。打率.269、115安打と初めて規定打席に到達した。体の状態について首脳陣との話し合いは頻繁に行われ、指揮官も「常に(試合に)出すのかどうかは配慮した」という。その上で「ただ正直……」と、リアルなやり取りも明かした。

「膝のこともあったけど、途中はバッティングの調子が悪いから外す時は外していた。『お前、今日は膝じゃないよ』って話もした。その時のバッティングコーチの担当が村松(有人打撃コーチ)だったから、『どんな状態になったら試合に出せるのかどうか、お前が判断せい』ってあいつに振ったんです」

「『こうなったからそろそろ大丈夫です』って内容があれば、コーチにも責任が生まれるじゃないですか。要は使ってみて全然ダメだったら自分の目利きが悪かった、となるので。途中はずっとショートの頭を(狙って)打ちにいかせて、練習でもその意識をさせてきたし、その辺はコーチにやらせていました」

 5月は月間打率.200、7月は同.215と波は確かにあった。欠かせないリードオフマンとして成長させるためにスタメンを託す一方で、危機感を与えることも忘れなかった。痛みも悔しさも胸に秘めながら、1年間、チームの先頭を走ってくれた。その結果、掴んだのがリーグ優勝という勲章だ。

 1軍の指揮を執るようになり、初めてのシーズン。監督と選手会長として、それぞれがチームの先頭に立った。周東の姿には「もちろん頼もしかった」と即答する。そして「主力がいつまでも安泰やったらあかんよって話ですよね。俺も現役の時、そうやったのよ。めっちゃ安泰やったから。(後輩に)負けたって思って辞めたわけじゃない」と付け加えた。周東はホークスを支える立派な主力選手の1人――。そう聞こえた。

(竹村岳 / Gaku Takemura)